【浜通り13物語】第10部・「変わらぬ仲間」/浪江、日本一の系譜

 
水素ステーションの運営など、実業でも活躍する前司氏と、22年に1日限りで復活した「太王」八島氏。写真はコラージュ。

 ヒーローの交代

 浪江町商工会青年部メンバーでつくる「浪江焼麺太国(やきそばたいこく)」は2013(平成25)年、ご当地グルメの祭典B―1グランプリで「なみえ焼そば」をPRし日本一となった。リーダーの「太王(だいおう)」は浪江の避難指示解除を境に姿を消したが、22年3月に1日だけ復活する。動画投稿サイト「ユーチューブ」にその映像が残されている。久々に現れた太王は、マスクマン姿のニューヒーロー「極太マン」にまちづくりを託すと明言した。

 ヒーロー交代劇を演出したのは「極太マン」こと商工会青年部長、伊達重機専務の前司昭博(41)だった。08年、彼を青年部に誘ったのは当時の部長の八島貞之。「商売をやる人が自分のことだけ考えてはいけない。地域が元気になれば、回り回って自分に返ってくる」。前司は、太王として地域おこしに走る八島を部員として支えるようになった。

 11年の東京電力福島第1原発事故を受け、前司はクレーンなどを使って休みなく廃炉作業に従事した。だが、八島が青年部活動を再開すると疲れた体でも駆け付け、B―1制覇に貢献した。その後は青年部活動から離れたが、八島に勧誘され、彼が創設に関わった浜通りの広域連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」に入会した。

 ある時「青年部長になる人がいない。引き受けて」と頼まれた。聞けば、部員は13人。「地域に恩返しする時だ」と思った。同時に「八島さんは日本一になった。自分も何かで日本一になろう」と決めた。人を集めようと声をかけると、すぐに数人が入部した。

 前司は、新入部員が一番多い青年部が全国表彰を受けることを思い出した。「これだ」。地元の若手を巡り「地域活動しないか」と呼びかけた。思いがあり浪江に住んでいる面々は「やります」と快諾した。集まった人数は28人。居住人口約1900人の浪江町で、21年度上半期の新入部員数日本一を達成した。

 前司にとって、ヒーロー交代劇は自分の世代が主役になるという「八島超え」の宣言だった。青年部は勢いを取り戻し、他地域からも一目置かれるようになった。マスクマンは増えて、「なみえアベンジャーズ」として古里をアピールしている。前司は青年部長を退き、4月から伊達重機の代表となる。クレーンリースの他に水素事業にも挑戦しながら、浜通りサーティーンの枠組みなどで地域活動を続けていく考えだ。

 現在54歳で、「八島総合サービス」の代表を務める八島は、前司の躍進をどう見るか。「何度も『八島超え』だと言ってくるんだけど、彼なりの僕への激励だろう。この年からでも新しい日本一の達成に向け頑張るよ」。まちづくりに終わりがないように2人の関係も続く。(文中敬称略)