【浜通り13物語】第10部・「変わらぬ仲間」/地域再生は地元の力で

 
建設中の工場をバックに「大熊でも製造業ができるぞとアピールしたい」と語る名嘉氏(左)と岩本氏

 東京電力福島第1原発事故で帰還困難区域だった大熊町の下野上地区で、工場の建設が進められている。富岡町出身でエネルギープラントの電気・計装メンテナンス会社「東北エンタープライズ」代表の名嘉陽一郎(47)と、大熊町出身で半導体製造会社「アイシーエレクトロニクス」代表の岩本哲児(47)が設立した新会社「F's Factory(エフズファクトリー)」の製造拠点だ。

 2人は、浜通りの広域連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の設立メンバー。名嘉がサーティーンに参加したのは「地元の企業が再生してこそ復興」と考えていたからで、岩本とも思いを共有していた。第1原発の廃炉作業に関わる中で、名嘉は防護服などのさまざまな物資のニーズが高いことを実感していた。「これを地元企業で供給することはできないか」

 一方の岩本はいわき市で事業を再建したが、大熊の工場跡地はそのままになっていた。半導体需要の高まりもあり、次なる一手を探っていた時に名嘉のアイデアを聞いた。「まだ大熊の工業用地整備は進んでいないが、うちの跡地ならすぐに使うことができる。大熊の製造業復活をアピールできるのではないか」と新会社の設立を模索した。

 2人がパートナーに選んだのが、浪江町出身でアウトドア用品などの製造販売を手がける「キャニオンワークス」代表の半谷正彦(44)だった。岩本とはいわきの同じ工業団地で再建した仲で、名嘉の会社が発注していた防護服関係の仕事で実績を上げていた。サーティーンのメンバーでもある半谷は「関東圏の企業の仕事をしてきたが、思えば地元から直接受注したことはあまりなかったな」と考え、新会社への参画を決めた。

 新会社の設立は震災から10年の2021年3月11日にした。社名は双葉地方、福島県、そして未来のための工場になればと、英語の頭文字の「F」から「エフズ」とした。次の10年の地域再生を地元の力で切り開いていくという思いを込めた。名嘉は「そこは本当にこだわった」と語る。工場の整備が順調に進めば、8月に操業を開始する。名嘉の会社が持つニーズ把握のノウハウや流通網を基盤に、半谷と岩本の会社の技術や経験を生かした縫製や金属加工の製品を作る予定だ。

 岩本は新工場を前に「人が戻ってから物を作るんじゃなくて、物を作るから人が帰ってくるんだと思う。待っていても何も動かない。エフズが先頭に立って、いろいろできる企業になればいい」と目を輝かせる。俺たちがやる気になれば何でもできるはずだ。サーティーン設立時の情熱は、いささかも失われていない。(文中敬称略)