【浜通り13物語】第3部・2人の相談役/仲間と念願のB-1制覇

 
「第8回B―1グランプリ」で念願の1位を獲得し、喜びを爆発させる「浪江焼麺太国」のメンバーら=2013年11月、愛知県豊川市

 なみえ焼そば、物語共感

 浪江町商工会青年部によるまちおこし団体「浪江焼麺太国(やきそばたいこく)」は、2013(平成25)年11月に愛知県豊川市で開かれたご当地グルメの祭典「第8回B―1グランプリ」に出場した。リーダーである「太王(だいおう)」の八島貞之をはじめとするメンバーは東京電力福島第1原発事故による避難を続けており、古里の味「なみえ焼そば」での優勝に向けて勝負をかけた。

 グランプリは来場者の投票で順位が決まる。味もさることながら、地元グルメを巡る「物語」に共感を得られるかどうかも重要な指標となっていた。八島らは新たなキャラクターとして一味唐辛子から着想を得た「スパイスマン」を投入する。なみえ焼そばは、一味唐辛子をかけて食べるのが「通」とされていた。

 当時、本県出身の子どもが避難先の学校で「放射能がうつる」などといじめられたとのニュースが報じられた。そこで「なみえ焼そばを食べれば、もうみんな仲間(一味)なんだ。仲良くしよう」というメッセージを込め、新キャラクターを投入して人と人とのつながりの大切さを訴えたのだ。この取り組みも功を奏し、浪江焼麺太国は1位のグランプリを獲得する。

 閉会式のステージに立つ八島の脳裏には、これまでの「太王」としての歩みがよみがえってきた。08年に焼きそばを使った町おこしを始めた。11年の福島第1原発事故後は、メンバーが散り散りになりながらも町民への焼きそばの炊き出しを続けた。多くの支援を受け、今は苦労を共にしてきた仲間たちが周りにいる。八島はマイクを握った。「福島のみんな、悪いことばっかりじゃない。これからも頑張っていきましょう」。会場から大きな拍手が送られた。

 八島らの奮闘もあり、14年の「第9回B―グランプリ」は東北・福島応援特別大会として郡山市での開催が決まった。10月18、19の両日、浪江焼麺太国など59団体が3会場に分かれてご当地グルメを振る舞った。主催者発表による来場者数は2日間で延べ45万3000人。本県復興の状況を多くの人に伝え、地域再生を誓う大会となった。

 八島らは「ホスト団体」として郡山大会の盛り上げに全力を注いだ。大会終了後も炊き出しなどの活動を続けた。そして浪江町は17年3月、帰還困難区域を除いた地域の避難指示解除を迎える。

 八島は考えた。「古里を取り戻すと宣言して頑張ってきた。これが一つの節目ではないか。これからは、より若い世代の新しい町づくりが必要だ。バトンタッチしよう」。八島は、思い出が詰まった「太王」の衣装を脱いだ。(文中敬称略)