【浜通り13物語】第5部・地域のバトン/「13市町村のドアになる」

 
団体の理念をつくるため意見を出し合うメンバーら

 団体名決め、理念まとめる

 富岡町出身の藤田大、大熊町出身の吉田学ら有志による浜通り復興を進めるための広域連携組織づくりは、2020年2月ごろから本格化した。当初は10人未満でのスタートだったが、それぞれが「この人物は」と感じた各地で活躍する若手を引き入れることで、仲間が増えていった。

 「大きな目的を共有しないとバラバラになる」という藤田の助言に従い、彼らはお互いの意見を出し合うことにした。「隣の地域の友人を互いに助け合いませんか」。吉田が趣旨を説明し、藤田が議論をリードした。やりたいことや大事なキーワードなどを付箋に書き出す講座のような会合を重ねた。新型コロナウイルスの感染が始まった頃で、オンラインでの議論も行われた。

 団体の理念は次のようにまとまった。「私たちは、浜通りの青年が中心となって地域連携を実現し、その和(輪)を広げながら持続的な地域発展に貢献します」。震災からの10年は国からのトップダウンで政策が決まったが、次の10年は地元で根を張る自分たちの手で地域をつくりたいとの願いが込められていた。

 団体名は、複数の候補の中からメンバーの投票で決めた。浪江町出身で「浪江焼麺太国(やきそばたいこく)」のリーダーだった八島貞之は「みんなで浜通りってアルファベットでどう書くんだっけと話していた。『HAMADOORI』だから、DOOR(ドア)がある。浜通り13市町村のドアになるという意味はどうか、となったんだ。俺はいいなと思ったよ」と振り返る。ちなみに、八島は藤田の発案と記憶している。名称は「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」に決まった。

 集まったメンバーはそれぞれ企業を経営したり、地域の団体に所属したりしていた。それぞれの職業や立場はそのままに、浜通り全体の復興を進めていくプラットフォームのような役割を持たせることについても申し合わせた。

 団体の代表はすんなり決まった。「何と言っても、言い出しっぺだな」。双葉高の同級生や出会った有志に「広域連携が必要だ」と言い続けてきた吉田が代表に選ばれた。ナンバー2はどうするか。理念づくりをリードしてきた藤田が推薦されたが「俺が仕切る団体ではないから」と固辞した。それでも推されたため、藤田は「じゃあ副代表は何人かでやろう」と条件を付け、副代表の一人になることで落ち着いた。

 「あくまでみんなの意見を引き出しただけ」と、今後の復興を担っていくであろう、勢いのある若手らのまとめ役に徹していた藤田だった。しかし一つだけ、自分の思いを通した部分があった。(文中敬称略)