【浜通り13物語】第6部・「浜の光」/双葉にホームタウン拡大

 
HAMADOORI13メンバーとの関わりなどについて語る大倉氏

 大倉社長、若手と交流

 「浜通りの復興のために広域連携の団体をつくりたいから人を集めてくれないか」。大熊町出身で避難先のいわき市で事業を再興したアイシーエレクトロニクスの岩本哲児は、幼稚園時代からの旧友である吉田学から頼まれた。幅広い人脈を持つ岩本は「よし、分かった」と即答した。岩本は「俺たちの間で特段の説明は必要なかった。仲間に声をかけるのが俺の役目だから」と振り返る。

 「学って前に飲んだことあるだろ、みんなで団体つくるから。俺も入るし、まずは来てみてよ」。岩本が同市の知人に呼びかけることで、有志のネットワークは広がっていった。その中には、お互いの子どもを通じて知り合った、いわきFC監督の田村雄三が含まれていた。その流れの中で、いわきFCの運営会社「いわきスポーツクラブ」社長の大倉智も、吉田をはじめとする後に「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の主要メンバーとなる若手と交流を深めていく。

 「いわき市を東北一の都市にすること」を掲げ、いわきに根差した活動を続けていた大倉だったが、双葉郡に足を運ぶたびに「まだまだ復興は道半ばだ」と感じていた。「僕たちがいわきでやっていることを、ここでもできるんじゃないか」。そう思い始めていた頃、浜通りの広域連携を目指す熱い若手のグループと出会ったのだ。大倉は「考え方がマッチする。何か一緒にできればいいな」と考えた。

 折しも、いわきFCはホームタウンをいわき市に加え、双葉郡に拡大する議論を進めていた。楢葉町と広野町にまたがるサッカーのナショナルトレーニングセンターで、東京電力福島第1原発事故後に収束作業拠点として使われていたJヴィレッジが2018(平成30)年7月に営業を再開し、「サッカーの聖地」としての輝きを取り戻していたことも好材料だった。20年2月、いわきFCは双葉郡へのホームタウン拡大を決める。

 「どうやって双葉郡で具体的に活動を広げていくか」。社内でそのようなことを議論する会議が開かれた際、組織としての形が出来上がりつつあったHAMADOORI13の名前が上がった。大倉は決めた。「そうだな、彼らに応援してもらおうか」

 いわきFCにとって初めてのJFL(日本フットボールリーグ)参入となるシーズンの開始は、新型コロナウイルスの感染拡大により2月から7月に延期されていた。まだ広く世に知られていないHAMADOORI13に、JヴィレッジでのいわきFC開幕戦の冠スポンサーにならないかというオファーが舞い込むのである。(文中敬称略)