【浜通り13物語】第6部・「浜の光」/知ってもらうチャンスだ

 

 開幕戦、冠スポンサー快諾

 「Jヴィレッジで行われるJFL(日本フットボールリーグ)開幕戦の冠スポンサーになることを検討してほしい」。いわきFCからの依頼に、浜通りの広域連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」代表の吉田学は胸を躍らせた。若手有志で設立したばかりの団体は、知名度がなかった。「これはみんなに自分たちのことを知ってもらうチャンスだ」

 クラブの運営会社「いわきスポーツクラブ」社長の大倉智やチーム監督の田村雄三らと交流する中で、浜通りを元気にしたいという思いを共有していることは分かっていた。気がかりだったのは協賛金だったが、メンバーであり、双葉高同級生の宮本政範から「やるべきだ。サーティーンで引き受けるんだから、お金はみんなで出し合えばいい」と助言され、心が固まった。

 2020年7月11日、Jヴィレッジで記者会見が開かれた。テーマは二つ。浜通り13市町村の若手有志によって復興を前に進めていくための連携組織「HAMADOORI13」の設立報告と、彼らがいわきFCの開幕戦マッチパートナーになることだった。

 吉田は、これまでの復興の動きに地域の枠があったことを指摘しながら「活動する人は多いが、発信力が弱い。みんなで一つになれば、もっと大きな活動ができるはず」と団体設立の趣旨を訴えた。すでに吉田ら若手の復興に懸ける情熱を知っていた大倉は「浜通りの復興の動きを一つの大きな輪にできるよう、われわれも貢献したい」とエールを送った。

 11年に東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生し、浜通りは大きく変化した。「古里のために何かしたい」と吉田や宮本、吉田知成、遠藤剛ら双葉高同級生の4人が広域連携の団体づくりを話し合いだしたのが16年ごろだった。

 先駆けて地域再生に取り組んでいた八島貞之、鹿股亘、藤田大らが合流して機運が高まり、20年2月から各地の若手が集まって具体的な組織づくりが始まった。そして設立したHAMADOORI13は、メンバーの一人の岩本哲児と田村の交流を通じて大倉といわきFCにつながり、その存在が世に出た。

 記者会見後に収録されたいわきFCの動画投稿サイト「ユーチューブ」に、大倉と吉田学の対談の模様が記録されている。

 「われわれはどうしたらいいですか。何を期待されていますか」(大倉)

 「まずは勝つことですね」(吉田学)

 「分かりました」(大倉)

 2人は笑顔で語り合っていた。

 共に浜通りの復興を一歩でも前に進めようとするHAMADOORI13といわきFCの思いがこもった開幕戦は、20年7月18日にキックオフした。(文中敬称略)