【浜通り13物語】第6部・「浜の光」/復興への思い胸に奮起

 
JFL初挑戦のシーズンの開幕戦に逆転勝利して喜ぶいわきFCの選手ら=2020年7月

 JFL開幕戦、逆転勝利

 いわきFCのJFL(日本フットボールリーグ)開幕戦は2020年7月18日、Jヴィレッジスタジアムで若手有志による広域連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の冠試合として行われた。試合前、監督の田村雄三は選手を集めた。

 Jヴィレッジは、東日本大震災後に東京電力福島第1原発事故の収束作業の拠点とされ、緑のピッチがコンクリートで覆われて宿舎などが建てられた。その後、関係者の努力により施設機能の回復が進められ、再び日本代表が合宿地に選んだ「サッカーの聖地」としての姿を取り戻した。

 田村は、その歴史を写真で選手に示し、浜通りの復興に関わるチームとしての奮起を促したのだ。すでにHAMADOORI13に入会し、浜通りで地道に地域再生に取り組む若手経営者らに親しんでいたことが、田村にそうさせたのかもしれない。

 試合開始1分、いわきFCは守備の隙をつかれ、奈良クラブに失点を許す。しかし選手たちは諦めることなく、鍛え上げた肉体で倒れず走り続けるプレースタイルを貫いた。同点弾は後半20分だった。こぼれ球に反応したFWが滑り込みながらの技ありのゴールを決めた。そして試合終了間際の後半41分。コーナーキックに頭で合わせ、勝ち越しに成功する。開幕戦の重圧をはね飛ばす逆転劇だった。

 試合は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け無観客で行われた。しかしスタジアムにはサポーターが事前購入したチームのロゴ入りの真っ赤なタオルが掲げられ、録音した応援歌が響いた。試合の模様はライブ配信され、いわきFCの勝利はサポーターやサッカーファンに分かち合われた。

 試合の冠スポンサーとなったHAMADOORI13には、大きな反響があった。いわきFCの開幕戦スポンサーになることがメディアで報じられ、団体そのものの存在が知られた。また協賛したメンバーの企業名も示されたことから「誰が会員なのか」も地元に知れ渡った。

 富岡町で設計・リフォームの「ホームキャリア」を経営していた鹿股亘の元には、知人から「鹿股さんもメンバーだったんですね」と反応があった。他のメンバーの元にも「HAMADOORI13って聞いたけど、どんなことをする団体なの」などの問い合わせが相次いだ。

 いわき市から双葉郡にホームタウンを拡大したばかりのいわきFCにとっても、上々の滑り出しだった。その価値は単なる1勝ではなく、チームがJリーグに求められる地域密着の在り方により近づいていくきっかけともなった。(文中敬称略)