【浜通り13物語】第6部・「浜の光」/被災地と歩むいわきFC

 
「浜を照らす光となる」との目標を解説する大倉氏

 サポーターの声を目標に

 いわきFCにとってJFL(日本フットボールリーグ)初挑戦となる2020年のシーズンは、若手有志による広域連携団体「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の冠試合となった開幕戦の勝利からスタートした。チームは奮闘し最終節までJ3昇格の可能性を残したが、7位に終わった。だが、この経験がチームをさらに飛躍させるバネになる。

 いわき市から双葉郡にホームタウンを拡大したチームは、Jヴィレッジスタジアムでの試合を重ね、勝利の喜びも敗北の悔しさもサポーターや地元と共有していった。やがてJヴィレッジで行われる試合の際、サポーターが一枚の横断幕を掲げるようになった。その文言は「浜を照らす光であれ」。いわき、広野、楢葉、富岡、川内、大熊、双葉、浪江、葛尾の9市町村の名前も記されていた。

 この自然発生的なフレーズが、チームを運営するいわきスポーツクラブ社長の大倉智の心を捉えて離さなかった。川崎市出身で早稲田大卒業後にJリーグ入り。引退後はスペインでスポーツマーケティングを学んだ。セレッソ大阪チーム統括ディレクターを経て湘南ベルマーレのジェネラルマネージャーと社長を歴任した。

 ベルマーレ時代に獲得に関わったのが田村雄三だった。田村が引退する時、「チームに残ってくれ」と説得し、強化部長やユースチームの指導などを任せた。2016年のいわきFC本格始動に合わせ、大倉と田村は強い信頼関係を保ったままいわきに転身し、チームの強化と地域貢献の両面で汗を流した。いわきFCは「浜の光」と認識されるまでに成長した。

 大倉はチームのビジョンを改訂した。「我々(われわれ)の使命=スポーツを通じて社会価値を創造する」「我々は何者か=我々は挑戦者である」「我々が信じるもの=スポーツの力」。最後の1項目は、自らに覚悟を問いかけるものだった。「我々の夢=浜を照らす光となる」。サポーターの思いが、チームの正式な目標になった。

 「今考えると、HAMADOORI13をきっかけにこうなったかもしれない」。JFLからJ3を経て、来季からJ2の舞台で新たな挑戦を始める今、大倉は当時を振り返る。

 話を20年7月に戻す。いわきFCの冠試合に協賛したことで、HAMADOORI13の知名度が増して会員が増えた。「一度みんなで集まり方向性を確認しておこう」との声が上がり、20年9月に決起大会を開くことにした。その会場は、メンバーの一人がゼロから理想を詰め込んで開拓したいわき市の農園だった。(文中敬称略)=おわり

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 この連載は菅野篤司が担当しました。