【浜通り13物語】第7部・「結実」/ワンダーファーム大盛況

 
ワンダーファームのオープン初日には、新鮮な農産物や加工品を求める多くの来場者でにぎわった=2016年2月、いわき市

 善意つながりプレオープン

 2014年冬、いわき市四倉の中島地区に大型トラクターのエンジン音が響き渡った。大規模なハウスでトマトを栽培する元木寛は、盟友で伝統農家の8代目である白石長利と2人で、地域の農家が産品を持ち寄る直売所やレストランを中心とした複合施設「ワンダーファーム」設立の第一歩を踏み出した。2人は草が生い茂った土地の開拓に汗を流した。

 元木は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故による風評被害を経験する中で、生産者が自分の付けた値段で消費者に納得して買ってもらう場をつくることを目標にしてきた。白石もまた、原発事故後に苦い経験をした。育てた作物を巡り、付き合いのあったバイヤーから「安くて良かったら買うよ」と言われた。ほかに作物の売り先はなかったが、申し出を断った。

 「自分がこれまで、物とお金だけの関係性でやってきたからこうなったんだ。もう、そういう付き合いはやめよう。物とお金の間にある思いを大事にしないといけない」。交流サイト(SNS)を始め、自分のプライベートや農作業の様子を公開し、その中で農産品をアピールすると新しい人間関係が生まれ、販路の開拓にもつながった。元木の掲げるワンダーファームの理想は、白石の目指す道と結び付いていたのだ。

 白石の尽力とさまざまな団体や企業の協力で、元木が代表を務めるワンダーファームは16年2月にプレオープンする。直売所とレストラン、加工施設を併設した「農と食の体験ファーム」と銘打った。元木は「高速道路のインターには近いけど、住宅地からは遠い。大規模な直売所やレストランの運営も初めてで、勝ち目があったわけではない。消費者に受け入れられるかどうかは、正直不安だらけだった」と当時を振り返る。

 オープン初日、元木の不安を吹き飛ばすように多くの人が詰めかける。施設に入ろうとする車が道路に並び、品物はすぐに売り切れた。元木は震災直後からの歩みを思い出した。物流が途絶えて廃棄せざるを得なかったトマトは、全国の消費者がインターネットの通販で購入してくれた。余ったトマトを避難所で配ると、食べてくれた人が風評をものともせず直売所に足を運んでくれた。多くの人の善意のつながりで実現したワンダーファームの設立。「全てがつながっている」と元木は喜びをかみしめた。駐車場係を務めていた白石も、思いは同じだった。

 開所間もないワンダーファームのレストランで、元木の大熊中の一つ上の先輩がパーティーを開いてくれた。後に浜通り広域の連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の代表となる吉田学であった。(文中敬称略)