【浜通り13物語】第7部・「結実」/郷里の先輩と共に行動

 

 有志団体の発足

 2016(平成28)年春にグランドオープンしたいわき市のワンダーファームは、トマト農家の元木寛がゼロから築き上げた直売所やレストラン、食品加工施設を備える「農と食の体験ファーム」だ。元木は大熊町出身で、同市にある妻の実家を継ぐことで就農した。ファーム開園に至る道のりで、古里・大熊の先輩たちも応援してくれた。

 そのうちの一人が中学の一つ先輩で、東京電力福島第1原発事故で避難を余儀なくされ、同市で半導体製造会社のアイシーエレクトロニクスを再建した岩本哲児だった。直売所などの新規事業に取り組む元木に「俺の仲間に会ってみたらいいよ」と豊富な人脈を駆使して頼りになる人材を紹介してくれた。

 もう一人が同市で設計・建設のタイズスタイルを起業した吉田学。学は岩本の同級生で、元木にとっては中学の野球チームや高校時代のアルバイトで多くの時間を共にした存在だった。原発事故後に同市で再会し、交流を深めていた。ファームが開園すると、学はレストランで会合を開いてくれた。それは学の双葉高の同級生である宮本政範が、家業である宮建工業の社長に就任したことを祝うパーティーだった。

 その時、学は元木に一人の男を紹介した。「覚えてるか。双葉中の知成だよ」。同級生の学に説得され、双葉町で家業のガソリンスタンドを再開させるため同市で準備を進めていた伊達屋の吉田知成だった。元木が中学時代、学と共に野球で勝敗を競った相手だった。この出会いをきっかけにして、元木は岩本や学、宮本、知成らと親交を結び、若手有志による浜通りの広域連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の発足メンバーの一人となる。

 浜通りサーティーンの始まりについて、元木は次のように記憶している。「話があるから来てくれ」。学に声をかけられ、JRいわき駅前の複合施設ラトブに向かった。一室に10人ほどが集まっていた。東日本大震災後に地域の農業再生に尽力してきた元木も「この人たちはすごい」と思う顔ぶれだった。学が「震災から10年間、国や県が主導して復興が進んできた。それには意味があったと思う。ただ、これからの10年は俺たち地元の人間が中心になろう」と語り、一同は「よし、やろう」と団結した。

 彼らは会合を重ねて理念を共有し、浜通りサーティーンを設立した。20年7月には、サッカーいわきFCのJFL(日本フットボールリーグ)開幕戦の冠スポンサーとなり知名度を高めた。メンバーがそれぞれ声をかけ、志のある仲間が増えていく中で、決起大会を開くことにした。その会場に選ばれたのがワンダーファームだった。(文中敬称略)