福島第1原発の処理水処分に3案 政府小委、長期保管含まず

 
原発処理水の海洋放出と大気放出の特徴

 東京電力福島第1原発で保管される放射性物質トリチウムを含む処理水を巡り、経済産業省は23日、政府の小委員会が取りまとめる提言案を示した。処分を前提に国内外の実績などを踏まえ、「希釈して海洋放出」「蒸発させて大気に放出(水蒸気放出)」「海洋、大気放出の併用」の3案を提示した。事実上、処分方法を絞り込んだ形で、結論に向けた議論が大きく動きだした。

 東京都内で開いた会議で示した。処分時期については「政府が責任を持って決定すべきだ」と求めた。委員から風評被害対策が不足しているとの指摘が出たため、議論は年明け以降も継続される。政府は県民の意見も踏まえて方針を決定するが、漁業関係者を中心に処分に反対する声は根強く、処分方法の決定に向けた先行きは不透明だ。

 小委は2016(平成28)年11月以降、政府の作業部会がまとめた〈1〉地層注入〈2〉海洋放出〈3〉水蒸気放出〈4〉水素放出〈5〉地下埋設―五つの処分方法を検討してきた。
 提言案では、地層注入、水素放出、地下埋設は前例がなく「規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多い」と指摘。その上で、国内外の原発で実績がある海洋放出、米国の原発で前例のある水蒸気放出に加え、風評への影響が漁業など特定の産業に偏ることを防ぐ観点から、二つを組み合わせた3案で検討することを明記した。

 長期保管についてはタンク増設のための第1原発敷地の拡大や敷地外への処理水移送が困難だと結論付けた。

 この日の会合では、風評被害の観点から海洋放出と水蒸気放出に難色を示す声もあった。また、風評被害の影響について「心理的な消費行動によるところが大きく、社会的影響の観点から処分方法の優劣を比較するのは難しい」とした提言案の記載に関し、「公聴会や海外の反応を考えると、海洋放出の社会的影響は極めて大きいと書くべきだ」との意見も出た。

◆「反対姿勢変わらず」県漁連担当者

 小委員会の提言案に対し、県漁連の担当者は「トリチウム水の海洋放出反対の姿勢は変わっていない。今後の推移を見守っていきたい」とコメントした。

◆風評対策記載乏しく 

 【解説】経済産業省が処分方法を海洋放出と水蒸気放出に絞り込んだ背景には国内外の原発での実績を踏まえ、技術的な確実性や安全性などの裏付けがある。ただ処分に伴う風評被害を懸念する声は多く、国内、海外を含めた理解の醸成をどう図るかが大きな課題だ。

 小委の初会合から約3年で議論が節目を迎えた。五つの処分方法のうち、海洋放出は基準を満たせば放出が世界的に認められており、水蒸気放出は炉心溶融した米・スリーマイルアイランド原発で実施済みだ。いずれも被ばく線量が通常生活で自然に被ばくする線量より大幅に低いという試算もあり、風評被害を少しでも抑制したい狙いがある。

 ただ提言案ではこれまで風評被害対策について議論してきた記載が乏しく、委員からは「検討が不足している」として、放出に伴う社会的影響について精査を求める意見が出た。小委は科学的な安全性に加え、社会的影響の検討も重視してきた経緯があり、次回会議で詳しく示される見通しだ。

 東電の処理水の保管計画では早ければ22年夏にも保管タンクの容量は満杯になる。だが、処分に反対する漁業関係者ら地元住民の納得なくして処分方法の決定はない。時間的制約が迫る中、地元理解という高いハードルは残されたままだ。