【処理水の波紋】漠とした不安、どう解消/情報発信の充実不可欠

 
廃炉や処理水に関する理解醸成に向けて東電が取り組む視察・座談会。安心につなげるためにも処理水放出後の情報発信の充実は不可欠だ

 「汚染水や処理水、トリチウムなどの言葉が独り歩きしている」。富岡町にある東京電力廃炉資料館の一室。福島第1原発の廃炉情報を発信するため、東電が6月に開いた原発の視察・座談会で、参加者の一人は漠然とした不安をこぼした。

 原発視察と東電社員らとの対話を組み込んだこの視察・座談会は2019年度、原発事故で避難指示が出た12市町村といわき市の住民を対象に始まった。21年度には参加対象を全県に拡大している。通常は団体での申し込みに限られる原発の視察だが、この視察・座談会は唯一個人で申し込むことができる。東電は廃炉の進展に加え、処理水に関する「情報発信の重要な機会」(担当者)と強調する。

 処理水放出の約2カ月前に開かれた視察・座談会では、参加者から処理水について「事故前にも原発から流していたのなら現実的だ」「やむを得ない」などの声が上がった。ただ、一人の女性は、目の前の東電や国の担当者に疑問を投げかけた。「正しい情報を持たずに放出に反対している人もいるんじゃないか」

政府説明「不十分」 第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を、基準値を下回るまで薄めて海に放出する―。この方針を決定した21年4月、当時の首相菅義偉は「政府が前面に立って安全性を確保し、風評払拭に向けあらゆる政策を行っていく」と表明、テレビや新聞といったあらゆる媒体を通じて広報を続けてきた。

 政府はこれまで、1500回を超える説明を繰り返したと実績を強調するが、共同通信が放出前の今月19、20の両日に実施した全国電話世論調査では、処理水に関する政府の説明が「不十分だ」とする回答が8割を超え、政府と世論の認識には乖離(かいり)が見られる。

 放出方針決定から放出までの2年間の政府や東電の取り組みの成果を専門家はどう見るか。福島大教授の牧田実(地域社会学)は、関心が高い層では理解が進んだと見る一方で、東電への不安や不信感を背景に「理解は限定的だった」と分析する。過去の汚染水の漏えいなど廃炉作業を巡る数々のトラブルとその後のずさんな対応を目の当たりにしてきた経験から「『どうせ流すんだろう』といった諦めのようなものがあり、冷めた感情を抱いている人が多かったのではないか」と話す。(文中敬称略)

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 東京電力福島第1原発の廃炉作業の大きな課題だったトリチウムを含む処理水の放出が始まった。放出にはいまだ関係者からの反対の声が根強く、理解も十分に進んでいるとは言い難い状況だ。繰り返し伝えられる放出の安全は、安心につながっているのか。放出を巡る課題を関係者や専門家の声で考える。