【処理水の波紋】「安定放出」実績積み重ね 初年度計画は少量

 
双葉町で始まった廃炉について考える国際フォーラム。専門家は「約束通りの放出を安定的に続ける実績が必要」「世界に応える信頼性のある情報公開が大切」と指摘する

 「処理水を海に流さないと廃炉が進まない理由を教えてほしい」。双葉町で27日に始まった東京電力福島第1原発の廃炉を考える国際フォーラム。パネル討論で登壇した地元の参加者は、原子力などの専門家らを前に、海洋放出が始まった処理水やトリチウムについての質問を投げかけた。

 東電福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者の小野明(64)は「敷地のほとんどを占めるタンクを撤去してさまざまなものを作らないと廃炉は進まない」と説明。「タンク解体も年単位でかかる。どう整理するかを計画的に進める必要がある。国もそれをくみ、放出を判断してくれたと思う」と応じた。

 第1原発では今も、放射性物質を含む汚染水が発生し続けている。多核種除去設備(ALPS)でトリチウム以外の放射性物質を取り除いた処理水の保管タンクは、原発構内に1000を超える。廃炉を進めるためには、取り出しが予定される核燃料(デブリ)や放射性廃棄物の保管施設などを整備する必要があり、保管の限界を迎える処理水の処分と敷地を埋め尽くすタンク群の整理は喫緊の課題だった。

 東電は海洋放出の初年度、処理水計約3万1200トンを海に流す計画だ。新たな処理水の発生を1日100トン程度と想定した場合に整理できるタンクは「年間10基程度」(東電幹部)。次年度以降は放出量を増やす考えだが、初年度の放出量は原発にたまる約134万トンの処理水全体から見れば非常に少ない量にとどめた。

 この計画について前原子力規制委員会委員長の更田(ふけた)豊志(66)は「環境や人の健康、海産物への影響が全く考えられないくらい慎重なものになっている」と述べ、安全性の問題は起こり得ないと指摘する。ただ、放出には多くの不安や反発がある。風評被害が懸念される中、更田は「一番大切なのは、約束通りの放出を安定的に続けられるという実績をつくることだ」と語る。

 フォーラムを主催した原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事長の山名元(はじむ)(69)も更田と同様、放出の不安を払拭していくには実績を積み重ねる必要があるとの意見だ。中国などで反発が強まる現状も踏まえ、こう語った。「処理水と廃炉の問題は地元の将来につながるもので長い先を見ていかなければならない。海外は信頼性を見ている部分があり、世界に応えられるよう信頼性のある情報公開が大切だ」(文中敬称略)