【処理水の波紋】「水産販売」小売り一丸 対消費者の最前線

 
県産ヒラメの刺し身を試食する西村氏(中央)。イベントにはヨークベニマルの大高会長(左から2人目)ら県内スーパーのトップが勢ぞろいした=28日、福島市・ヨークベニマル南福島店

 「おいしいという一言。身が引き締まっている」。福島市のヨークベニマル南福島店で行われたイベントで、県産ヒラメの刺し身を口にした経済産業相の西村康稔(60)はそう言って表情を崩した。

 ヨークベニマル、マルト、リオン・ドールコーポレーション、いちい。三陸・常磐ものの魅力を発信するイベントには、県内の各スーパーのトップが勢ぞろいした。

 西村は「県産水産物のおいしさをできるだけ多くの人に、国内外にお伝えしていきたい」と述べ、代表であいさつしたヨークベニマル会長の大高善興(83)は「処理水の風評被害を心配し、地元のトップが参加した。オール福島でお客さまに正しい情報を伝え、キャンペーンを通じ、販売拡大にみんなで力を合わせていきたい」と協力を誓った。

 東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出によって懸念される風評被害。消費者と直接つながる流通・小売業界は、県産水産物の販売に協力的だ。県内4社は、経産省などと連携した県産水産物の販売キャンペーンを展開。全国のスーパーなどが加盟する小売業関連5団体も4月、処理水放出後も三陸・常磐ものの海産物を引き続き店舗で取り扱うことを表明、放出開始前日の23日には再度、生産者を応援する姿勢を示した。

 食材を取り扱う側はどうか。茨城県北茨城市の海鮮料理店「食彩太信(だいしん)」では処理水放出を間近に控えた7月、あえて「常磐もの」を前面にうたった海鮮しゃぶしゃぶをメニューに加えた。運営会社社長の前田賢一(47)が「漁師を応援したい」との思いを込めて提供を開始したものだ。

 一緒に考え頑張る

 地元大津や隣接するいわき市の漁港に毎日足を運んで仕入れる魚は料理や加工品にするほか、スーパーなどにも卸している。周囲には「福島の問題じゃないか」と反応する人もいるというが、前田は「処理水に負けたくないという思いもあった。茨城も福島も同じ海。一緒に考え頑張っていかなくてはならない」と話す。

 商売への影響は不安だったが、処理水に関する報道が増えるごとに店には「頑張って」という声も多く寄せられるようになった。現時点で今年10、11両月の団体予約は前年比2割増となっている。「魚を仕入れ続けることで漁師にも安心してもらえるはずだ」。前田は今までと変わらず魚を扱うことが、風評対策につながると信じている。(文中敬称略)