【未来この手で】第2部・七転び八起き つなぎ戻った双葉の心

多くの双葉町民が新春の古里に集い、懐かしい顔との再会を楽しんだ。1月7、8の両日、東京電力福島第1原発事故による全町避難を乗り越え、双葉ダルマ市が12年ぶりにJR双葉駅前で開催された。「やっと双葉で再開できてうれしい」。避難先のいわき市で伝統行事の灯を継承してきた「夢ふたば人」会長の中谷祥久は、2011年3月11日からの長い道のりを思い起こしていた。
「いつ古里に帰ることができるんだろう」。原発事故から間もない頃、いわき市勿来地区の仮設住宅で双葉町消防団第2分団の仲間と語り合っていた。自分たちの企画した秋祭りを楽しむ仮設の住民の姿を見て、散り散りに避難してしまった町民が集まることのできるダルマ市をやってみようと決めた。運営団体として、第2分団のメンバーを核に有志の「夢ふたば人」を設立した。
12年から途切れることなく開催し、生活再建のステージに応じて会場もいわき市勿来地区の仮設住宅から復興公営住宅に移った。「ダルマ市でみんなに会うことができた」。その言葉が、継続の原動力となった。新型コロナウイルス感染拡大の危機も、避難指示が先行解除されていた町内の中野地区での実施で切り抜けた。そして、ダルマ市のにぎわいは双葉町に戻ってきた。
駅前には多くのブースが設けられ、中野地区でファストフード店「ペンギン」を復活させた山本敦子が、懐かしの味のハンバーガーを売っていた。岐阜県から双葉への工場進出を決めた浅野撚糸(ねんし)の浅野雅己も出店していたが「よそ者の自分たちはどう見られているのか」と考えていた。会場で町商工会長の岩本久人に「よく来てくれました」と声をかけられ、胸の片隅にあった不安は吹き飛んだ。
活況ぶり 目頭熱く
1年の豊年満作や商売繁盛を占う恒例の「巨大ダルマ引き」では、町民や来場者が北と南の二手に分かれて重さ600キロのダルマを引き合い、威勢のいいかけ声が響き渡った。町役場新庁舎で開かれていた「はたちを祝う会」に出席した若者たちの姿もあった。「夢ふたば人」の中でも震災前のノウハウを知り主力となってきた福田一治は、笑顔あふれる活況に「これですよ」と、目頭を熱くした。
会場の一人一人が、震災後に激変した生活を双葉ダルマのように七転び八起きしながら前に進んできた。
福田は「俺たちはダルマ市というたすきをなんとかつないできた。それが重いか、軽いかはみんなに判断してもらえばいい」と語る。彼らが大事に運んできたものは、江戸時代から続く伝統だけではなく、双葉が双葉らしく復興するための「未来への切符」だったのかもしれない。(文中敬称略)おわり
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この連載は渡辺晃平、菅野篤司が担当しました。
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