【田村・都路】「故郷への道」険しく、11月・区域解除目指す

 
田村・都路

来年のコメの作付けに向けて、トラクターで水田を手入れする斉藤さん=田村市都路地区田村市都路地区の避難指示解除準備区域。事前宿泊が始まり、帰還に向けた環境整備が進む=8日

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域が全11市町村で再編され、田村市都路地区の避難指示解除準備区域は、市が避難区域で初めてとなる11月の区域解除を目指す。しかし、福島第1原発周辺の自治体は帰還の見通しが立たず、住民には放射線への不安がつきまとう。除染が進まない中、帰還への道は険しい。避難者は、避難区域外からの自主避難や地震、津波による避難を含めて県内外に14万6000人余り。減少傾向にあるが、背景には、長引く避難生活での経済的、精神的な負担がある。離れ離れで生活する家族も多く、避難者を支える態勢や帰還を受け入れる環境の整備が急務となっている。

 田村市都路地区の避難指示解除準備区域は、8月1日から帰還準備に向けた長期の事前宿泊が行われている。対象は、区域内の住民121世帯、380人とその関係者で、期間は10月末までの3カ月間。同市は、期間が終わる11月1日の区域解除を目指し、今後住民と協議する方針だ。

 同地区は、福島第1原発から20キロ圏内の避難指示解除準備区域以外も、全域が旧緊急時避難準備区域に指定され、一時住民が避難した。2011(平成23)年9月に解除されたが、現在も帰還した住民は2〜3割にとどまる。

 同地区の市発注による除染は今月中の完了を予定しており、国直轄除染を含め、全ての除染が完了することになる。市は、市内の別の校舎で授業を実施している同地区の小、中学校などを来年4月に元の校舎に戻す方針。また、公設の商業施設も今後2カ所に整備するなど、帰還に向けた環境整備を急いでいる。

 「まず、できることから」 農業再開へ斉藤さん

 「いつまでも賠償を頼りにはできない。自分たちでできることを始めていきたい」。田村市都路地区の避難指示解除準備区域の自宅から郡山市に避難する農業斉藤忠五郎さん(77)は、帰還への思いを語る。斉藤さんは区域が解除されれば、自宅に戻る予定で、来年は4年ぶりのコメの作付けを計画している。

 同区域は今年、3年ぶりにコメの作付けが可能となったが、実際に作付けした住民は震災前の64戸に対し、3戸だけ。斉藤さんも放射性物質への不安から作付けしなかったが、除染が完了し、「これ以上、作付けを延ばせば、田んぼが荒れてしまう」と考え、来年の再開を決断したという。

 8月に長期の事前宿泊が始まり、斉藤さんも定期的に自宅に戻り、田んぼの手入れに励んでいる。「稲がないのに草刈りするのは張り合いがなかった。今は気分がいい」。帰還に向けて、自宅も今春、リフォームし、いつでも戻れる準備は整った。

 ただ、元の生活に戻れるかどうか不安もある。最も心配なのは、原発の状況で「自宅周辺の線量は低いが、汚染水問題など原発が不安定な状況では、帰還する住民は増えていかない」と指摘する。

 また、震災前は大熊町などに買い物に行くことがほとんどだったため、自宅に戻れば、不便にならないか、との心配もある。斉藤さんは「田村市が都路地区に整備する商業施設を充実させてほしい」と期待を込めた。