相次ぐ「裁判外紛争解決手続き」 和解は56%、5130件

 
相次ぐ「裁判外紛争解決手続き」 和解は56%、5130件

 原発事故に伴う損害賠償をめぐり「完全賠償」が多方面から求められるなど、東京電力の賠償への姿勢を「不十分」とする被災者の思いは強い。東電が基準を明確にせず「個別事情に応じる」とあいまいさを残すことが背景にある。このため、県内外で損害賠償支払いの和解仲介を求める裁判外紛争解決手続き(ADR)や訴訟の提起が相次ぐ。

 原子力損害賠償紛争解決センターによると、2013(平成25)年のADRの和解仲介申立件数は4091件。11年9月の同センター設立からの累計では9154件に上り、うち56%の5130件で和解が成立した。

 同センターがホームページで公開する和解例では、賠償対象外の県南の市町村からの自主避難でも避難費用などが認められたり、就農直後に原発事故に遭った農家も過去の収益実績にとらわれずに逸失利益が認められた例などがある。

 同手続きは、同センターで被災者から賠償に合意できないなどの申し立てを受け、仲介委員が解決を目指す。同センターは都内二つの事務所のほか、郡山市に福島事務所、県内4カ所に支所がある。申し立ての受け付け電話番号はフリーダイヤル0120・377・155。

 訴訟は東電や国を相手に、全国の14地裁・支部に起こされている。県内企業が原発事故で営業休止を余儀なくされたり、取引を拒否されたなどとして東電に逸失利益を求めるなどの訴訟がある。

 東電は「解決金として」  被ばく不安への支払い認めず 

 東京電力は、原発事故に伴う損害賠償の裁判外紛争解決手続き(ADR)で、被ばくへの不安に対する和解案を初めて受け入れた。ただ、原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案は「慰謝料」を支払う内容を盛り込んだのに対し、東電は「土地の固有事情を踏まえ『解決金』として支払う」とし、あくまでも被ばく不安への慰謝料ではないとの立場を取っている。

 東電が和解金支払いに応じるのは、帰還困難区域の飯舘村長泥地区の住民の申し立てと、特定避難勧奨地点に指定されなかった伊達市民が指定世帯と同等の賠償支払いを求めた計2件。

 和解案で被ばく不安への慰謝料とする賠償金の支払いは、長泥地区で1人当たり50万円(子どもと妊婦は100万円)、伊達市では月額7万円とされた。

 被ばく不安への慰謝料支払いについて東電は、低線量被ばくの健康影響が科学的に明らかになっていないとして「認めない」と主張する。これに対して支援弁護団は「(東電は)波及効果を恐れ、被ばく不安への慰謝料の考え方に応じない」とみている。

 同村では、蕨平(わらびだいら)地区の住民も同様にADRを申し立てている。支援する弁護士は「(蕨平は)長泥地区と同等の線量で、同じような和解案が示されるのではないか」とみている。

 

 浪江集団申し立て 慰謝料増...和解案に注目

 浪江町が原発事故に伴う慰謝料の増額を東京電力に求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)は近く、原子力損害賠償紛争解決センターから和解案が示される。申立人数は現在、1万5313人に達し、町民の7割を超えた。原発事故で損害を受けたとして、慰謝料の増額、真摯(しんし)な謝罪、町全域の放射線量を事故前の数値まで下げることなどを求めている。

 特に慰謝料については、原発事故で地域コミュニティーが引き裂かれたことなどを指摘し、東電が主張する個別事情に応じてではなく、月10万円を一律35万円に増額することを求めている。

 浪江町の集団申し立てを、原発事故で大きな影響を受ける他の市町村も注目する。双葉郡のある町村の職員は「被害に見合った賠償の底上げへ選択肢の一つとして行方を注視している」と話す。職員は「原発事故では家屋や土地だけでなく、コミュニティーなども失っている」とし、実態に見合うよう、賠償制度の見直しや全体の底上げの必要性を指摘している。