笑顔咲く「仮設商店」 沿岸部商業者、再開へ向け動き加速

 
笑顔咲く「仮設商店」 沿岸部商業者、再開へ向け動き加速

なじみの客と談笑する美由紀さん=楢葉町・ここなら商店街

 東日本大震災から3年半を経て、経済の復興も進んでいる。国や県の補助制度などの後押しもあり、県内に進出する企業は増加傾向にある。企業業績が好調なことから倒産企業数も低水準を保っている。ただ、現在の好業績を下支えしている復興特需や各種補助制度がいつまで続くかは不透明で、企業からは「先行きが見通せないのが現状」との声も聞こえてくる。一方、東京電力福島第1原発事故による避難区域や、津波の被害を受けた沿岸部の商業者も再開に向けた動きを加速している。ほぼ全域が避難指示解除準備区域の楢葉町では7月に仮設商業共同店舗がオープン。早ければ来春以降を目指す住民帰還開始に向けて呼び水となるか注目される。

 【楢葉・ここなら商店街】「懐かしくて涙出た」励みに

 「はいっ、ニラレバ定食おまちどうさまです」

 ほぼ全域が避難指示解除準備区域の楢葉町に7月下旬にオープンした仮設商業共同店舗「ここなら商店街」。弾むような声を店に響かせ、とびきりの笑顔で客に配膳する「武ちゃん食堂」の佐藤美由紀さん(49)は「やっと、(新しい店に)慣れてきた」と手応えをつかんだようだ。

 震災前は、町内のJR竜田駅前に店を構えていた老舗食堂。原発事故に伴う避難で休業していたが、夫の茂樹さん(51)とともに「一日でも早く地元の楢葉町で」と町内での営業再開を決めた。店舗には東日本大震災前、町内などで営業していた飲食店とスーパー3店舗が入居する。オープンから1カ月ほどが経過した現在、復旧・復興に携わる作業員や一時帰宅した町民らでにぎわう。メニューは再開時の2品から徐々に増やしているが、一番人気は震災前と同じくニラレバ定食だ。

 「再開前は少し不安もあったけど、『うまくて懐かしくて涙が出そうになったよ』とお客さまに言われ、うれしかった」と美由紀さん。2人は毎日午前5時半にいわき市の借り上げ住宅を出発、営業後は翌日の仕込みをして、帰るのは午後10時すぎだ。「疲れて家では爆睡。けど、心地よい疲労感かな」と笑顔を見せる。先日、なじみの客に「焦らなくていいんだから」と言われた。美由紀さんは「まずはこの場所で自信をつけて、一歩ずつ進みたい」と話した。

 【いわき・浜風商店街】「顔なじみに会える」店頭に

 震災による津波で大きな被害を受けたいわき市久之浜町にある仮設商店街「浜風商店街」は地元住民の買い物のほか、交流の場としてにぎわいを見せている。2011(平成23)年9月にオープンした同施設は、9店舗と久之浜町商工会などが入り、地域復興のシンボルとなっている。一方、同地区では災害に強い町をつくる震災復興土地区画整理事業が進む。区画内には商業施設「浜風きらら」が建設され、16年度にオープン予定。浜風商店街オープンから3年を経て環境が変わる中、今後の店舗継続に向けた選択に揺れる商業者もいる。

 浜風商店街に入っている「シューズショップさいとう」の斉藤キヨ子さん(83)は同区画整理事業エリア内に店を構えていたため、換地によって新たな土地を割り当てられた。この道60年で、地元の人には「キヨばあちゃん」と呼ばれ、愛されている。震災直後は惨劇にショックを受け、体重も減った。しかし浜風商店街がオープンすると、顔なじみに会いたいとの思いで店に立った。徐々に体調は戻り、客からは「よく頑張ってるねぇ」と声を掛けられる。斉藤さんは「みんな来てくれるから、頑張るしかないでしょ」と笑顔で答える。

 新たに割り当てられる土地で店を開くかどうか、斉藤さんは迷っている。高齢になり、市内の別の場所に住む娘の近くに行くべきか。「店に来るみんなと会話できるのがうれしい。でも世話になっている娘の近くもいい。気持ちが揺れてるね」。すぐには決断できそうにないという。

 新たに建設される「浜風きらら」は現在、入居希望者への説明会が開かれている。2300平方メートルの敷地は決定したが、建物の規模や外観などは今後、決められる。入居は、主に同区画整理事業のエリア外からの希望者が多いという。市は、同じく津波の被害を受けた同市平豊間にも仮設商店街を整備し、年内にオープンさせる予定。

 倒産件数は低水準

 東日本大震災後、復興特需や東京電力からの賠償金などにより企業の業績がおおむね好調なため、県内企業の倒産件数は低水準で推移している。

 帝国データバンク福島支店によると、今年1〜8月の県内企業の法的整理による倒産(負債額1000万円以上)は23件で、前年同期より7件減少した。同支店は震災前と比較し、「毎月の倒産件数が2、3件程度で推移するのは異常な状況」と倒産件数の少なさを指摘。一方で、負債総額は36億8100万円で前年同期より2億700万円増。今後は、負債規模大型化の傾向が懸念されるという。

 復旧・復興事業に携わる建設業などを中心に業績が好調な企業も多いが、同支店は「今後、東電から賠償金を受ける企業が減り、復興需要も落ち着く可能性がある。県内の企業からは先行きに明るさを感じられないとの声が多く聞かれる」と、見通しを厳しく捉えている。