被災の経験...『台風』に生きた 小名浜から避難「まさか郡山で」

 

 「津波に遭わないように避難してきた。まさか郡山で水害に遭うとは思わなかった」。警備業、男性(66)は東日本大震災後、いわき市小名浜から郡山市田村町の借家に引っ越し、孫と2人で暮らしてきた。しかし、猛威を振るった台風19号は、男性が住む借家をのみ込んだ。

 「ここで死ぬものか」。水位が床上1メートル程度まで上がり、覚悟を決めて外に出たが、周囲は氾濫。借家にあった約1メートルの木板を孫との命綱に、濁流に流されながらも冷静に周囲を見渡し、つかまれるところを確保して何とか命をつないだという。

 「今、命があるのは小名浜の経験があったから」。震災で小名浜の自宅は屋根が崩れ落ち、津波も玄関先まで迫ってきた。当時は「泡を食った。死を覚悟した」。だが、その経験が今回の冷静な判断につながった。「川だったら、海のような引き潮に巻き込まれることはないと思った」

 男性は一時、息子が住む小名浜に身を寄せたが、仕事のため郡山市に戻り、現在は孫とともに高瀬小体育館で避難生活を送る。当初、夜を過ごすために用意されていたのは毛布だけ。「硬い床に引いた毛布では体が痛く、満足に寝られなかった」と振り返る。

 郡山市では9日午前10時現在、市内10カ所の避難所で343人が避難生活を余儀なくされている。「弁当もありがたいし、温かいご飯を食べると心が明るくなる」。男性は行政やボランティアの支援に感謝の思いを口にする。

 だが不安も拭えない。県や市の公営住宅の抽選に外れるなど次に住む場所が定まっておらず、先の見えない生活は続く。「孫と安心して暮らせる場所を確保したい。道のりは大変かもしれないが、生活が落ち着いたら趣味の旅行と釣りに行くことを考えて頑張りたい」