またしても自然災害...問い直される「防災」 心構えや体制強化を

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興へ歩みを進める本県を、またしても自然災害が襲った。台風19号をはじめとする10月の大雨は、本県に甚大な被害をもたらすと同時に、震災を教訓とした防災に対する心構えや、体制強化の必要性を改めて問い掛けた。

 手つかずの「浸水」対策 ライフライン早期復旧を

 【水道】いわき市では東日本大震災と台風19号のいずれの災害でも多くの世帯が断水、市民生活に欠かすことのできないライフラインの早期復旧が求められた。

 2011(平成23)年3月11日の震災時には、各地で浄水場から貯水池に浄化した水を送る配水管などが破損し、市内のほぼ全域に当たる約13万戸で断水。管は約1600カ所で漏水し、さらに4月11日の余震でも破損が発生したが、同年4月21日までに、津波や地滑りのあった被災地を除き、ほぼ市内全域の水道が復旧した。

 一方、今回の台風では浄化された水の供給源に当たる平浄水場が水没し、使用不可能に。最大約4万5400戸で水が出なくなった。断水は飲み水の不足ばかりでなく、水害を被った市民の復旧作業の足かせにもなり、泥出しや浸水した家財道具の清掃が進まないなど、被災者の疲弊につながった。平窪地区の70代男性は「水が出ないと復旧も進まない。浸水を受けた後の水の大切さを痛感した」と話す。

 同浄水場は浸水ハザードマップ上で約2メートルの浸水が想定される地域に立地。しかし、日本水道協会が来年度に水道施設の耐震基準の見直しを控えていることから、浸水対策は手つかずだった。市水道局担当者は「耐震工事が終了してからでないと、浸水対策には手をつけることができなかった」としている。

 市水道局は震災後、水道管の更新時に耐震性の管を採用するなど、地震に対する備えに取り組んできた。ただ、総延長約220キロに及ぶ水道管をすべて耐震管に替えるには約100年かかるという。また、市内5カ所の浄水場を水道管でつなぎ、いずれかの浄水場が稼働不能となった際に互いにバックアップし合える体制の構築も検討している。

 浸水対策については、防水扉や壁、堤防の設置などが考えられるという。「さまざまな手法がある。どのような方法がいいのか、考えていく必要がある」。関係者は激甚化、多様化する災害の対応に苦慮している。

 整う復旧体制 最大延べ4万3400戸「停電」

 【電力】台風19号では県内で最大延べ4万3400戸が停電した。東北電力は、県内で最大約27万戸が停電した東日本大震災の経験が「常日頃から災害に備える」という防災意識の一層の向上につながっているという。台風19号では被害が想定された浜通りに事前に応援隊を派遣したり、災害発生時に速やかに復旧体制が整えられるよう連絡体制を事前に確立する対応を取った。

 また、停電情報が速やかに利用者に伝わるよう、2014(平成26)年からホームページで停電情報を公開。当初は市町村単位で30分ごとに更新していたが、現在は市町村の町字単位で5分ごとに情報を更新している。昨年からはツイッターも活用し、インターネットによる災害時の情報発信を強化している。

 受け手側行動移す意識必要 福島大教授・鈴木典夫氏

 【情報発信】日中に発生した東日本大震災と異なり、夜から翌日未明にかけて本県に大雨をもたらした台風19号では、各市町村による避難情報は夜間に出される形になった。情報発信の方法や受け取り方が多様化する中、適切な利活用が必要だ。

 地域福祉が専門で震災、原発事故後は学生ボランティアへの指導などに取り組んできた福島大行政政策学類の鈴木典夫教授(58)は「震災の頃と比べて多言語で緊急情報を発信するアプリなどは進歩しており、情報の受け手側が積極的に情報を活用し、行動に移す市民意識を持つ必要がある」と話す。

 鈴木教授は「避難情報があっても、受け手が『私は大丈夫』と考えて動かなければ情報の意味がない」と指摘。「『もっとこうすれば良かった』と後悔しないために、空振りになっても情報を積極的に受け止めて行動してほしい」と呼び掛ける。

 一方、「台風19号では、夜間に避難しようとして犠牲になった人もいた。時間帯や地域など、条件に応じた情報発信の仕方を考える余地がある」と情報の出し手側にも注文を付けた。また、避難時の運営スタッフに外国籍の人や障害者など多様な人に加わってもらうことで、必要な情報が届きにくい人に対して当事者目線で情報を発信できる体制づくりも求めている。