古里つなぐ『学び』目指す 震災・原発事故...試行錯誤の学校現場

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から間もなく丸9年。震災直後の2011(平成23)年4月に小学校に入学した子どもたちは今春、中学卒業を迎える。中には古里で学ぶことなく9年間の義務教育を終える生徒も。古里について学ぶため、試行錯誤する学校現場の今を探った。

 映像と話...郷土愛「創造」

 【双葉町】原発事故に伴う避難指示が出た県内市町村で唯一、全町避難が続く双葉町。いわき市に仮校舎を構える双葉南、双葉北両小は、総合的な学習の一環として「ふるさと創造学」の授業に取り組んでいる。児童たちは幼いころのかすかな記憶をたどりながら、双葉町に関わる人々から話を聞いたり、本やインターネットを活用し、立ち入ることのできない古里のイメージを膨らませている。

 NTTドコモなどの協力で現地と仮校舎を回線でつなぎ、ライブ中継する「バーチャルふるさと遠足」も実施した。「映像で見て、話を聞くことで『双葉町』の概念ができる」と泉田淳双葉南小校長。ただ「子どもたちは双葉町が何なのか分からない。分からなければ、郷土愛を育むこともできない」と教育の難しさを吐露する。

 学校は古里の考え方について、児童の考えを尊重している。「僕にはふるさとが二つある」。双葉南小の草野稜介君(5年)が書いた作文の一文だ。草野君は原発事故後、埼玉県に避難。同県の幼稚園、小学校に通い、埼玉県が古里と疑わなかったという。その後いわき市に移り、双葉南小に通うようになった。「どちらの古里も好き」。草野君は屈託のない笑顔を見せる。

 「大事なのはアイデンティティー。『古里がある』と思うことが大切」と泉田校長。3月4日には町の一部地域で避難指示が解除される。「デリケートな問題だが、何らかの形で紹介し、いつか連れて行ければ」。泉田校長はそう感じている。

 生徒たちが町内訪問

 【大熊町】大熊町の一部地域で避難指示が解除された昨年4月以降も、会津若松市で授業を続ける大熊中。避難指示解除に伴う新たな取り組みとして、生徒たちが実際に町内を訪れる機会をつくった。「本当の古里、生徒たちの原点を見せたい」(新井田克生校長)という教職員の思いからだ。

 同市の仮設校舎では2、3年生5人が学ぶ。校舎内には町に関する新聞記事や写真などが壁一面に張られているが、一歩校舎を出れば、震災や原発事故を感じさせるものはほとんどない。「生徒が大熊で過ごせたのは幼稚園まで。あまりにも避難している時間が長く、古里を実感するのは難しくなっていた」と新井田校長。どうやって古里への愛着を育てていくべきか、教員らは自問してきた。

 町を訪れた生徒たちが新たに整備された町役場庁舎を訪問すると、職員から「大熊で待っているよ」と声を掛けられたという。「新しい町をつくっている人たちに会うことができ、思いを感じ取ることができた」。新井田校長は活動の意義を語る。
 同校は今後も町内に足を運ぶ行事を実施し、生徒たちが古里を身近に感じられる機会をつくっていく方針。新井田校長は言う。「生徒たちが大熊について考えるきっかけを与え続けることが大切だ」