最先端研究開発拠点「福島ロボットテストフィールド」本格始動へ

 
今春に全面開所する福島ロボットテストフィールド。約50ヘクタールの広大な敷地を有し、無人航空機、インフラ点検・災害対応、水中・水上ロボット、開発基盤―の4エリアに分けられ、最先端のロボット開発・研究が行われる

 世界に先駆けた産業技術が浜通りから発信される。南相馬市などに広がる「福島ロボットテストフィールド」、化石燃料に代わるエネルギーとなる水素を製造・供給する浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」。これらの施設が間もなく全面的に完成する。"技術革新"がもたらす恩恵に、関係者の期待も大きい。

 南相馬の中小11社『ワンチーム』

 浜通りに新産業を集積する福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想に基づき、県が整備を進めるロボットの研究開発拠点「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市、浪江町)は今春、全面開所を迎える。

 震災の津波に襲われた沿岸部に位置し、東京ディズニーランドに匹敵する約50ヘクタールの広大な敷地には、災害で壊れたトンネルや橋、水害で冠水した市街地など、あらゆる災害現場を再現した施設が立ち並ぶ。

 無人航空機、インフラ点検・災害対応、水中・水上ロボット、開発基盤―の4エリアに分けられ、陸海空にわたるロボットの研究開発ができる。

 拠点の本館に位置付けられる中核施設の「研究棟」にはすでに、県内外の16企業・団体が入居する。今後、人を乗せて空を移動する「空飛ぶクルマ」など、世界最先端のロボット研究が本格的に始まる。

 南相馬の技術力を世界に見せよう―。福島ロボットテストフィールドで8月に一部競技が開かれるロボットの国際大会「ワールドロボットサミット(WRS)2020」の出場に向け、南相馬市の製造業などでつくる南相馬ロボット産業協議会は1月、クローラー型の災害対応ロボット「ミソラ」を完成させた。

 協議会に所属する市内の中小企業11社が"ワンチーム"となって共同開発した。昨年6月に始動し、設計、製造、組み立て、調整の一連の工程を手分けして「メード・イン・南相馬」のロボットを作り上げた。

 ロボットは人の立ち入りが難しい災害現場に入ることを想定して作られた。搭載したカメラを活用して遠隔操作し、階段や狭所の移動、メーターの読み取り、バルブ操作などができる。

 「まさに映画『下町ロケット』の世界。南相馬の中小企業が生き残りとプライドを懸けて作った技術の結晶だ」。アームやクローラーなどの部品製造を担当した精密機械製造業「シンコー」の田中一秀取締役工場長(42)は熱っぽく語った。

 部品製造の過程では一つの問題も生じた。11社の中には、普段はライバル企業として関わる者同士がいた。「部品1個を作るコストをチームで共有してしまうと、ライバルに手の内を明かすことにつながってしまう」。それでも「ライバルの垣根を越えて、南相馬の企業が結束して一つのロボットを作り上げる物語に意味があった」と田中氏は話す。同協議会の事務局「ゆめサポート南相馬」が相見積もりの調整役となることで、問題は解決できた。

 震災と原発事故による避難の影響で、深刻な働き手不足に直面する相双地方。協議会はWRSを通じて、子どもたちに夢を与え、若い人材の確保につなげたい考えだ。技術力の高さを発信し、他企業とのビジネスマッチングも見据えている。