あの日の記憶...残すための拠点 東日本大震災・原子力災害伝承館

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故による未曽有の複合災害で甚大な被害を受けた本県。県内各地には被災の記憶を伝える多くの映像や資料が残っている。双葉町に整備が進む「東日本大震災・原子力災害伝承館」は記憶伝承の拠点。被災を経験した県民の記憶が、この施設を通して全世界に発信されようとしている。

 東日本大震災・原子力災害伝承館は今夏ごろ、双葉町中野地区に開館する。未曽有の複合災害の記録と教訓を継承する拠点となる。被災の状況や本県の現状を伝えようと、県が東京五輪・パラリンピックの開催を見据えて整備を進めている。

 双葉町中野地区は4日に原発事故に伴う避難指示が解除されたばかり。東日本大震災の地震と津波、そして原発事故の被害を受け、その甚大さを実感できる場所に位置している。

 同館では、震災に関わる資料の収集や保存をはじめ、展示・プレゼンテーション、研修プログラムの提供、原子力防災の調査と研究、専門分野の人材育成などの事業を行う。

 このうち展示・プレゼンテーション事業では六つのエリアに区分し、震災と原発事故による被災の記憶を発信する。写真や映像、収集した資料を展示し、被災前の各地域の様子や災害発生時の状況、復興の取り組みなどを紹介する。

 被災の体験や教訓などを伝える「語り部」が活動する場所も設ける。同館の隣接地には復興祈念公園の整備が進められており、県が今夏の一部利用開始を目指している。

東日本大震災・原子力災害伝承館

 「東日本大震災・原子力災害伝承館」各ゾーンの展示内容 

 【プロローグ】導入シアターを設置。7面の大画面映像で震災前の地域の様子をはじめ、地震と津波、原発事故の発生、避難生活を経て復興に向けて立ち上がる姿などを紹介する。各展示ゾーンのガイダンスの役割も担う。

 【災害の始まり】当時の実写映像や被災した実物資料を展示する。地震や津波、原発事故で地域の生活がどのように変わってしまったのかを伝える。地震、津波の被害の大きさを紹介。原発の模型や解説映像などを通して発電所内で起きたことや当時の行政対応について解説する。

 【原子力発電所事故直後の対応】当時の実写映像とビッグデータによる解析映像を基に、避難の様子などに焦点を当てて伝える。錯綜(さくそう)する情報、転々とした避難生活。これまで経験したことのない原発事故直後の状況や特殊性を紹介し、海外の反応や支援に対する感謝も伝える。

 【県民の想(おも)い】証言や思い出の品などを展示する。平穏な日常が原発事故後にどのように変わってしまったのか。災害発生時の不安や恐れ、学校生活の変化、家族や地域との別れ、将来への不安など県民の想いを伝える。

 【長期化する原子力災害の影響】タッチパネル解説や資料を通して学んでもらう。原子力災害が長期化する中で発生したさまざまな影響。その中から、除染、風評、長期避難、健康不安の四つに焦点を当てて、どのように対応したのかを伝える。

 【復興への挑戦】逆境を乗り越え、復興に挑戦する本県の姿を紹介する。廃炉作業の進行状況、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想、県民の復興への挑戦に関する情報を発信することで、県内のほかの施設、地域への回遊を促す。まちづくり体験などで来館者が福島の未来について考えるきっかけもつくる。