一歩ずつ前に進んできた『新地』発信へ 聖火ランナー・鶴岡さん

 
「新地が一歩ずつ前に進んできたということを発信したい」と話す鶴岡さん

 世界のトップアスリートが東京を舞台に頂点を競う東京五輪・パラリンピックが今夏、幕を開ける。開催理念に掲げられたのは、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの「復興五輪」。県内を聖火リレーが出発、野球・ソフトボール競技の一部試合も開催される。五輪開幕まで5カ月を切り、県内でも開催機運が高まる。

 26日に本県を出発する東京五輪の聖火リレー。東日本大震災による巨大な津波で甚大な被害を受けた新地町では、中学校の卒業式当日に震災を経験した会社員鶴岡拓弥さん(24)が聖火を運ぶ。「自分が地元を走ることで、新地が一歩ずつ前に進んできたということを発信したい」と、期待を膨らませる。

 自宅は沿岸部に近く、この9年間、故郷の復興の様子を間近で見てきた。震災の巨大な揺れに襲われたのは卒業式を終え、自宅に戻った時だった。幸い家族や家は無事だったが、沿岸部に足を運ぶと、幼い頃から遊んでいた海岸沿いの景色は一変していた。

 進学した小高工高(現小高産業技術高)では、相馬市や南相馬市原町区のサテライト校で3年間を過ごした。在学中に本来通うはずだった小高区の校舎を訪れる機会はあったが、校舎内に入ることはなく卒業を迎えた。「悔しさ、さみしさはあった」。それだけに復興に対する思いは強い。

 震災9年が経過してもいまだに根強い風評の声があることを実感する。東京五輪への不参加を検討する国もあるというニュースには心を痛めた。「復興五輪として世界中の人に実際に訪れてもらい自分の目で安全だと知ってほしい。各国のスポーツ選手が日本で活躍することも風評払(ふっ)拭(しょく)につながるはずだ」

 聖火リレーでは、津波で大きな被害が出た町沿岸部もルートに含まれた。JR新地駅周辺を中心に開発が進み、海水浴場も再開するなどようやく活気が生まれてきた。本番まで1カ月を切る中、南相馬市の工場に勤務しながら、休みの日などに釣師防災緑地公園などのコースを自主的に走って準備している。人混みを避けるなど、体調管理にも余念はない。

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響でリレーの観覧自粛など規模縮小の可能性はあるが、「いずれにしても思いは変わらない。走ることで地元の元気な様子をアピールしたい」と決意を示す。