「酪王カフェオレおいしい!」 鈴木さん、ファンの声が大きな力

 
「酪王カフェオレ」をはじめ製品を愛する人たちからの支援に感謝を深める鈴木さん

 避難住民の帰還や風評の払拭(ふっしょく)、産業の再生など、東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から丸9年を経てもなお、課題が山積する本県。各自治体が課題の解決を目指す一方、浜通りでは福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想が推進されるなど、復興に向けた新たな取り組みも始まっている。本県の今、そして将来をつくるため、県民はそれぞれの現場で歩みを進めている。

 「そんなことより酪王カフェオレおいしい」

 原発事故の風評被害にあえぐさなか、インターネット上にこんなつぶやきが広がった。酪王乳業(郡山市)専務の鈴木伸洋さん(61)は「ただ単純に製品を『おいしい』と思ってくれる人たちが声を上げ、応援してくれた。それが今もずっと続いている」と感謝する。

 震災後、被災した工場の復旧を終え、出荷制限が出ていない県外の生乳を集めて生産を再開したが、売り上げは2~3割減。この状況は6年ほど続いたという。行政の検査に加えて自主検査を9年間、毎日続けるなど生産量を増やすための取り組みや情報発信に努めてきた。

 そんな中、同社の人気商品「酪王カフェオレ」ファンを公言する多くの著名人が支援の声を発信してくれたことが、大きな後押しになった。売り上げは徐々に回復し、酪王カフェオレについては震災前より増加。感謝の思いから、本県の未来を担う子どもたちを元気にするための事業にも力を入れるようになった。

 「震災時も今も、県内の子どもたちは経験しなくてもいいような経験をしている」と鈴木さん。同社が製造する牛乳は、県内の学校給食に供給される約53%を占めており、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う小中高校の休校措置で大きな影響を受けているが、「子どもたちのために何ができるかを、今後も考え続けていきたい」と前を向く。