「公設スーパー」奮闘!頑張る生産者を応援 買い物環境が課題

 
新鮮な魚介類が並ぶ店内。帰還した町民や復興作業員の暮らしを支えている=楢葉町・ブイチェーンネモト

 東京電力福島第1原発事故による避難指示が解除された地域で、買い物環境が課題となっている。市町村や政府は、「公設民営」方式での店舗からスタートし、民間の事業再開を進める方針だったが、現状は地域事情や住民の帰還状況などによってさまざまだ。

 地元の生鮮食品豊富

 【楢葉】楢葉町北田の国道6号沿いにオープンし、間もなく2年を迎える公設民営の商業施設「ここなら笑店街(しょうてんがい)」。その一角に店を構えるブイチェーンネモトは、町内唯一の生鮮食品店として、帰還した町民や復興作業員の生活を支えている。
 約580平方メートルの広々とした売り場には、町の農家が生産した取れたて野菜や、小名浜港(いわき市)で水揚げされた新鮮な魚介類が所狭しと並ぶ。「古里に再び根を張って頑張る生産者を応援したい」。根本茂樹社長(58)は、そんな思いで地元産品の販売に力を入れている。
 2015(平成27)年9月の避難指示解除から4年9カ月が過ぎた。町に戻った住民は、人口の6割弱に当たる3990人(4月30日現在)。このうち4割弱が65歳以上の高齢者だ。
 店内はにぎわいを見せるが、根本社長は「いわき市から通う従業員も多く、人件費はほかの地域に比べて高い。十分な利益が出るまでには時間がかかる」と課題を挙げる。震災前に町内にあった鮮魚店など小売業に今のところ再開の動きはない。根本社長は「ニーズを捉えて店を運営する。町がにぎわいを取り戻す力になりたい」と力を込めた。

 ニーズと向き合う日々

 【南相馬・小高】南相馬市小高区での買い物の中核を担うのは、18年12月に開店した公設民営スーパー「小高ストア」だ。避難指示が解除される前の15年9月に開店した公設民営仮設店舗「東町エンガワ商店」に代わって誕生した。
 指定管理者の丸上青果(同市原町区)の岡田義則社長(45)によると、住民からは当初「品ぞろえが少なく価格が高い」という声が寄せられたという。小高区に帰還してきた人の多くは高齢者だが、自ら車を運転できる「元気な高齢者」が多く、原町区の大型店に客が流れていた。
 小高ストアは4月、品数増と低価格化を目指し中小商業者で組織する全日食チェーンに加盟。品数を約2300品に増やしたことで、客入り数や客単価が上がった。6月からは移動販売も始めた。
 しかし、売り上げは決して順調ではない。小高区の居住者数は、震災当時の約3割で頭打ちになっている。
 岡田社長は「今の倍近い7000人の人口がいなければ売り上げは伸びない。ほかの民間の進出は難しいだろう」と話す。それでも「元気に営業している姿を見てもらい、小高で事業を起こそうという若者を増やしたい一心だ」と語った。

 大手出店より便利に

 【浪江】原発事故による避難指示が一部地域で17年3月に解除された浪江町。時間の経過とともに、町内の買い物環境は大きく変わってきた。
 避難指示解除前の14年8月、町役場東側にコンビニエンスストアのローソンが営業再開。16年10月には、公設民営の仮設商業施設「まち・なみ・まるしぇ」が開業した。飲食店や生活雑貨などを扱う店舗が軒を連ね、住民や町内で働く作業員らの生活を支えている。
 大きな転機は、昨年7月のイオン浪江店の開店だ。生鮮食品などは近隣の南相馬市の店まで出掛けなくてはならなかったが、同店の開店により、町内で購入できるようになり、利便性が向上した。
 8月には、町役場北側で道の駅なみえの一部施設が先行オープンする。小売店や直売所も整備されることから、地元住民のみならず、町外からの利用も想定される。
 町産業振興課商工労働係の今野雄一係長(43)は「震災・原発事故前にあった商店も、徐々に再開している。再開が加速するように関係機関と連携し支援をしていきたい」と話す。

 週2回、隣町に送迎

 【飯舘】東京電力福島第1原発事故による避難指示が17年3月末まで出されていた飯舘村。現在、村内で買い物ができるのは「いいたて村の道の駅までい館」と、併設されたコンビニエンスストアのみだ。
 村は今春から、買い物環境の改善のため、生活支援ワゴン運行事業に乗り出した。村社会福祉協議会に業務委託し、住民を毎週水、金曜日に川俣町内のスーパーやホームセンターに送迎。1人暮らしで、車の運転ができない住民の買い物を支援する。毎週ワゴン車を利用する高橋タマコさん(87)は「買い物支援は生活をする上で欠かせないが、避難先の都市部での買い物環境に慣れた村民は帰還しないのでは」と本音を語る。
 村の担当者は「生産性を考えたときに、出店側の計画が進まないのが現状。ただ、店舗の誘致を諦めたわけではない」と強調した。