続々と被災地に「ホテル」オープン! 帰還に必要...復興後押し

 
「宿泊は地域に人が戻るために必要な事業。さまざまな宿泊需要に応えていきたい」と話す志賀社長=浪江町・ホテル双葉の杜

 【浪江・ホテル双葉の杜】東京電力福島第1原発事故からの復興の道を歩む浪江町に7月、2017(平成29)年3月に一部地域での避難指示が解除されてから初めて、ビジネスホテル「ホテル双葉の杜」が開業した。「一時帰宅や復興事業、観光など、さまざまな利用を想定している。利用する人に安らぎの場を提供したい」。運営会社フタバ・ライフサポートの志賀崇社長(47)は真新しい施設で抱負を語る。

 同社は双葉郡の復興を後押ししようと、15年5月に広野町に「ホテル双葉邸」を開業。復興の最前線で働く人たちの宿泊需要に応えてきた。一方で、志賀社長は古里・浪江町に複雑な気持ちを抱えていた。「浪江で宿泊事業をやってみたいが、採算面で難しいのではないだろうか」

 ためらいの気持ちを払拭(ふっしょく)してくれたのは前町長の故馬場有氏だった。避難指示が解除される前に、二本松市にあった町役場で面会する機会があった。馬場氏は「宿泊事業者として、故郷の復興に力を貸してほしい」と協力を求めたという。期待に応えなければ―と志賀社長は決意を固めた。

 ホテル双葉の杜は全95室。自宅にいるようにくつろいでもらおうと、館内を素足で移動できるようにしたほか、客室に畳敷きのスペースを設けた。レストランでは、地元の請戸漁港で水揚げされた魚介類など旬の食材を使った料理を提供する。

 「宿泊は地域に人が戻るために必要な事業。人が宿泊すれば、飲食業や観光業など、これまで再開していなかった事業者も、町内で再開しようという気持ちになっていくのではないか」と期待する。そして「被災地では挑戦するだけではなく、成功しないといけない。後から続いてくる人たちの見本となる経営を目指す」と力を込める。

 ロボ研究者に『照準』

 【南相馬・ホテル丸屋グランデ】南相馬市原町区で創業150年超の歴史を誇る「ホテル丸屋グランデ」は5月、JR常磐線原ノ町駅前に全面建て替えしてオープンした。ロボットの研究開発拠点「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市、浪江町)に訪れる研究者を中心にさまざまな"おもてなし"で迎える。

 「理系のお客さまにとって居心地の良い環境を整えた」と前田一男社長(62)は話す。新築した丸屋は、客室の机を広くし、1、2階フロアには電源付きの机を設けるなど、仕事をしやすい工夫を施した。

 ロボット関連の研究者が南相馬を訪問する機会が増え始めた約2年前、研究者からは「南相馬のホテルは電話予約で面倒」「ネットで予約できる仙台に泊まる」などの声が上がっていた。宿泊需要を逃していたことに気付いた市旅館ホテル組合は昨年3月、市内宿泊施設の空室状況などが分かるホームページを新設し、利便性の向上を図った。

 前田社長は「ホテルは交流人口を受け入れる最前線。『南相馬に来て良かった』と感じていただける最大限のおもてなしを続けていきたい」と話した。

 リピーター増が『鍵』

 【富岡ホテル】「廃炉作業は長く続く。復興に関わる人に繰り返し選ばれるホテルを目指す」。富岡町のJR常磐線富岡駅前に2017年10月にオープンしたビジネスホテル「富岡ホテル」。渡辺信一支配人(44)は、復興作業員を中心にリピーターをいかに増やせるかが今後のホテル運営の鍵を握るとみる。

 オープン当初は双葉郡内に宿泊施設は少なく、復興に向けた工事も盛んに行われていたため、数カ月単位で長期宿泊する客が多かった。69室あるホテルの稼働率は、目標に掲げた平均7割を維持していた。

 しかし、復興事業がピークを過ぎると、長期宿泊者は激減。ホテル周辺にはアパートや企業の寮の建設が進んだ。郡内にも宿泊施設が相次いで誕生。競争が激しくなりつつある状況を見据え、渡辺支配人は「宿泊者の心をつかむ取り組みが必要」と気を引き締める。

 富岡ホテルでは、専属料理人が県産食材にこだわった料理を提供する。接客の際には会話を大事にし、アットホームな雰囲気づくりを心掛ける。渡辺支配人は「家族と離れ復興に携わる人が、宿に帰れば温かなぬくもりを感じられる。そんな環境をつくることが強みになる」と語った。