「準備に2年」...処理水処分、迫る決定期限 福島第1原発廃炉

 

 東京電力福島第1原発は事故発生から9年6カ月を迎えた。廃炉の完了までは最長で40年程度が見込まれており、約4分の1を消化した現在でも全体の工程には不透明さが残る。放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法についても議論が尽くされたとは言い難く、依然として廃炉を巡る課題は山積している。

 東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を巡り、東電は、2022年夏ごろに敷地内の保管用タンクが満杯になるとの試算を示している。処分の準備には約2年を要する見通しで、逆算すれば、今秋が処分方法の決定期限との見方が関係者の間での通説だ。県内外から処分への反対意見や慎重論が相次ぐ中、政府がどのような判断を下すかが焦点となる。

 処理水の取り扱いを検討する政府小委員会は2月、海か大気への放出が現実的とした上で、海洋放出の利点を強調した提言をまとめた。東電は3月、海洋放出の場合は海水で500~600倍に希釈し、大気放出の場合はボイラーで気体にした後、空気で薄めて排出するとした技術的な検討状況を公表している。

 こうした経過を踏まえて政府が6度開催した意見公聴会では、自治体や農林水産業、流通団体の代表者、一般県民から放出への反対意見が続出。また、4日現在で県内の21市町村議会が海洋放出に反対したり、処分方法を慎重に検討したりするよう求める意見書や決議を可決した。新たな風評被害を懸念する声が大勢を占めており、政府には、より踏み込んだ対策の検討と提示が求められる。

 第1原発では、建屋に流れ込んだ地下水が溶融核燃料(デブリ)に触れるなどして1日当たり約180トンの汚染水が発生し、多核種除去設備(ALPS)で処理後に地上タンクで保管している。設備トラブルなどで処理水の約7割にはトリチウム以外の放射性物質が国の基準を超えて含まれており、東電は、これらを再浄化して国の基準を満たす考えだ。今月15日から、特に濃度が高い約2000トンの再浄化に着手する。

 「3号機」年度内完了目指す 2号機、24年度開始へ

 【使用済み核燃料取り出し】使用済み核燃料プールに燃料が残る1~3号機のうち、2019年4月に始めた3号機での取り出し作業が続いている。4日現在、核燃料566体のうち336体の取り出しを終えており、東電は21年3月末までの作業完了を目指している。

 炉心が溶融した1~3号機は原子炉建屋内の放射線量が高く、遠隔操作での作業となる。3号機では2日午後、燃料取り出し中に機器のケーブルが損傷するトラブルが発生し、復旧作業中の数週間、取り出しが中断する。東電は「これまでの工程が順調なため、中断を踏まえても年度内の取り出し完了は達成できる」としている。

 2号機は24年度の取り出し開始を予定し、今後、原子炉建屋の南側に構台を設けて燃料取り出し用の機器を新設する。6月に初めて使用済み燃料プール内の調査を行い、取り出しの支障となる異常がないことを確認した。1号機は27年度の取り出し開始を目指す。

 1、2号機は放射性物質の飛散防止対策を充実させるため、19年12月に改定した廃炉工程表「中長期ロードマップ」で燃料取り出しの着手時期を最大5年遅らせた。

 回収用機器開発進む

 【デブリ取り出し】廃炉工程で「最難関」とされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは、2021年に2号機で最初の着手を見込み、回収用の機器開発が進んでいる。早ければ31年末までに3号機、1号機の順番で取り出し開始を目指し、デブリがある原子炉格納容器の内部調査は1号機が本年度中、3号機は25年度までに着手方針だ。

 炉心溶融した1~3号機のうち、2号機では格納容器の内部調査でデブリとみられる堆積物に接触するなど、状況の把握が最も進んでいる。実際の取り出しでは、格納容器に通じる既設の作業口などにロボットアームを入れ、試験的な回収から順次、規模を拡大する。取り出したデブリは第1原発敷地内で一時保管する。

 3号機はこれまでの調査で、デブリとみられる物体が格納容器の底部などに広がっているのを確認している。1号機ではデブリを直接確認できていないことに加え、取り出し装置を設ける原子炉建屋1階の放射線量が毎時約千ミリシーベルトと高い環境にあることを踏まえ、3号機を優先して検討する。