「殉職団員の魂」後世へ 南相馬・萱浜、住民避難誘導中に津波

 
顕彰碑の前で仲間への思いを語る長沢さん=南相馬市

 「これ(顕彰碑)を建てないと消防団は辞められないと思っていた。11日が来ると必ずあの日(東日本大震災)のことを思い出すよ」。元南相馬市消防団長の長沢初男さん(72)はそうつぶやいた。

 顕彰碑は、住民の避難誘導中に大津波に巻き込まれ殉職した団員9人の功績を後世に残すものとして、同市原町区萱浜の市防災備蓄倉庫敷地に建てられた。

 長沢さんは2015(平成27)年12月に、市消防団や行政区長会などでつくる実行委を設立した。顕彰碑建立に向けて協議を重ね、地元企業や市民から建立費の寄付を募った。「もうすぐ10年たつけど、気持ちは当時のまま。最後まで消防団魂を燃やした仲間を忘れたことはない」。長沢さんは碑に刻まれている9人の名前を見つめながら語った。

 沿岸部の団員は、震災直後、大津波の可能性があるとして分団の車両に乗って住民に避難を呼び掛け、安全な場所へと誘導した。津波が目前に迫る中、団員の懸命の訴えで多くの人の命が救われたが、原町、鹿島、小高の各分団に所属した9人が犠牲となった。

 同じ悲しみを繰り返さないためにも長沢さんは今年3月まで約5年間、消防団のアドバイザーを務め、緊急時のマニュアル改定などにも携わってきた。

 引退した今でも"心はいつも消防団"として生活する。「訪れた人が防災への意識を強くする場所になってほしい」。長沢さんはそう語り、静かに手を合わせた。