「一度逃げたら絶対戻るな」 いわき、伝えたい...古里を教訓を

 
「ここで起きた出来事を後世に伝えたい」と石碑に手を添える木田さん=いわき市

 一度逃げたら絶対戻るな―。大津波に見舞われながら、奇跡的に社が残ったいわき市久之浜町の秋葉神社付近に建てられた石碑に刻まれた一節。久之浜・大久地区復興対策協議会前会長の木田寿夫さん(79)は「ここで起きた事実と住民の思いが込められた場所」と言い石碑を見つめた。

 2011(平成23)年3月11日に発生した津波の第1波は、海岸の堤防で食い止められた。「その時、海や自宅の様子を見に戻ってしまった人がいた」と木田さんは振り返る。

 第1波から約7分後に襲ってきた巨大津波の高さは約7.5メートル。地区の607世帯をのみ込み、59人の命を奪った。津波が引いた後の大規模な火災では71戸が焼失。がれきで道がふさがれ、消火活動は難航した。

 復旧が進み無残な光景が消えゆく中、「ここでの出来事を形にして子や孫たちに伝えよう」と、有志でつくる協議会が17年10月ごろから検討を開始。翌18年9月に「東日本大震災追悼伝承之碑」として建立した。

 「二度と同じ悲劇は繰り返してはならない」。真っ赤に染められた「一度逃げたら絶対戻るな」の一文は、木田さんらの思いを象徴している。「震災を忘れないために、石碑を活用して後世に思いをつなぎたい」。神社近くには商業施設や住宅が再建され、今や地区のにぎわいの場となった。津波の爪痕が目立たなくなった土地で、石碑は命を守るすべを伝え続ける。