【球場ルポ】決戦の時待つ!東京五輪延期、責任感強くなった1年

 
東京五輪野球・ソフトボールの会場となる福島市のあづま球場=2021年2月

 東京五輪の野球・ソフトボールの一部試合があづま球場(福島市)で開催されることが決定してから4年、天然芝と土だったグラウンドは全面人工芝に新調され、五輪仕様に生まれ変わった。1年の延期を経ても輝きを保ったまま、その時を静かに待っている。

 2月末、球場の近くで散歩する男性に五輪への期待を尋ねた時のことだ。「本当に開催されるのかな」。質問を返され、何も答えることができなかった。本番まで半年を切ってもなお、新型コロナウイルスの感染拡大への不安は払拭(ふっしょく)されず、五輪ムードが漂うほど楽観的ではない。コロナ禍での大会開催を巡り、政府や大会組織委員会への不満も噴出し、スポーツの枠を超えた議論が沸き起こった。失言問題も相まって、ボランティアや聖火ランナーが辞退を申し入れる一幕もあった。新型コロナとの闘いに人類が打ち勝った証しとして実現する大会に位置付けられているが、「復興五輪」の意味合いはだいぶ薄まってしまったのか。

 もやもやした気持ちを抱えながら、球場を管理する県都市公園・緑化協会の斎藤達雄さん(57)を訪ねた。大会組織委や県との打ち合わせを重ねている斎藤さん。今でも不明確な部分は多いが、「(五輪について)心配な部分を挙げればきりがないけど、今回も一生懸命やるしかない」と言い切る。震災当時、避難所となった球場近くの体育館で避難者対応に当たっており、その経験が復興五輪に関わる責任感を一層強くする。

 入社1年目だった記者も取材のためこの避難所に何度も足を運んだ。2011(平成23)年9月の閉鎖まで延べ11万人を受け入れた体育館。球場の前には自衛隊が設置した入浴施設があった。この地で五輪が開催されるからこそ震災から10年の復興の歩みを強く感じる人も多いと思う。

 盆地特有の蒸し暑い夏のあづま球場で行われるソフトボールから東京五輪はスタートする。シャトルバスを降りた観客が意気揚々と球場へ向かい、新調されたグラウンドに球音と歓声が響く。そして地元の子どもたちが日本代表に声援を送る―。球場に立つと、そんな光景を期待してしまう。