【常磐線ルポ】つながる思いとレール 響く警笛...「頑張れ」の声

 
9年ぶりの運行再開に伴い、双葉駅に入る特急「ひたち」。ホームでは「おかえり常磐線」と書かれた横断幕を持つ人たちが列車を出迎えた=2020年3月14日

 JR常磐線の全線開通から1年ほど。沿線の風景をこの目で確かめるため、平日の昼下がりにいわき発原ノ町行きの普通列車に乗り込んだ。

 雲一つない青空が広がり、春を感じさせるそよ風が吹く中、電車が走り始める。車内を見渡すと、新聞を広げる男性や親子連れ、学生の姿も。車窓からは海も見え始め、穏やかな景色が続いた。

 震災後、最後の不通区間として残っていた富岡―浪江間に入るあたりから風景が変わり出す。車窓から見える重機やトラック。荒れ果てた田んぼには、がれきが無造作に積み上げられていた。

 夜ノ森駅に差し掛かるころには「帰還困難区域につき通行止め」と書かれた看板やバリケードが見え始める。線路沿いでは除染で出た土などが入る黒いフレコンバッグも目立つようになった。

 沿線住民はどう感じているのか知りたくて、途中下車してみた。桜の名所が近くにある夜ノ森駅。駅近くの美容室「ミスト」を訪ねた。佐々木千代子さん(64)が妹の佐藤幹子さん(52)と一緒に切り盛りする店だ。

 店は避難指示解除後の2017(平成29)年8月に営業を再開。帰還した住民のほか、避難先から来店する人もいる。

 「特急ひたちが駅を通過する時に、たまに警笛を2回鳴らすの。ピー、ピーって。それが『頑張れよ』って言っているみたいで、聞くと胸がキュンとするの」

 佐々木さんは近くの線路から聞こえてくる音に復興への思いを重ねていた。

 双葉駅の休憩スペースには「ご自由にお書きください」と書かれた「双葉駅ノート」が置かれていた。

 「家解体迷っているぞ!! 双葉は私の心の中に 皆に逢(あ)いたいよ―」「双葉は元気です。今もこれからもずーっと先まで」―。ノートをめくると、古里に対する感情が、文字から伝わってくる。

 「全線開通に合わせ、昨年8月に同じ場所で店を再開したんですよ」。浪江駅前に店を構える老舗うなぎ店「大坊」では、4代目の大坊雅一さん(65)が笑顔を見せ、「今すぐ戻らなくてもいい。ふらっと遊びに来られる町になれば、いつか活気は戻る」と力を込めていた。

 1年前に一つにつながったレール沿いには、かつてのにぎわいを取り戻すため、今も残る爪痕に負けじと奮闘している住民たちがいた。「春になったら満開の桜を見に来よう」。そう誓って帰路に就いた。