「風評対策」実効性に疑問 第1原発・処理水、政府が方針決定

 

 【処理水の海洋放出決定】東京電力福島第1原発の処理水を巡り、政府は4月13日に海洋放出の方針を決定した。漁業者を中心として風評を懸念する声が根強いことから、8月24日には「風評を生じさせないための仕組み」と「風評に打ち勝ち、安心して事業を継続・拡大できる仕組み」の構築を柱とする当面の「風評被害対策」を公表した。

 対策には具体的な取り組みとして、海洋放出で需要が減少した際に政府が水産物を一時的に買い上げるための基金創設や大規模消費地での理解促進を目的としたシンポジウム開催などを盛り込んだ。しかし、関係者からは実効性を疑問視する声が上がる。

 一方、事故の当事者の東電は8月25日、原発から約1キロの海底トンネルを新設し沖合に海水で希釈した処理水を放出する―という全体計画案を示した。東電は「放出した水が再循環し戻ってくるのを極力避けたい」として、火力発電所などで導入実績がある海底トンネルを採用した。

 東電によると、放出する場所は日常的に漁業が行われていない海域という。実際の海洋放出までに、放射性物質の海域モニタリング(監視)の態勢強化も図る。

 風評対策、放出の具体的な手法のいずれについても、地元への説明は十分に進んでいない。政府と東電には、関係者の理解と納得を得るための責任ある行動が求められる。

 2号機の核燃料、取り出しへ除染

 【廃炉工程】廃炉では、第1原発2号機から使用済み核燃料を取り出す工程に入った。使用済み核燃料は、原子炉建屋の上部にあるプールで保管されている。8月19日からは、核燃料を取り出す装置を設置するため原子炉建屋の最上階の「オペレーティングフロア」と呼ばれる場所の除染に着手した。

 東電は早ければ2024年度までの除染終了を目指し、24~26年度を予定する燃料取り出しにつなげたい考えだ。ただ、フロアの空間線量は高い所で毎時100ミリシーベルトを超えており、目標としている毎時1ミリシーベルトに向け慎重な作業が進められる。

 また2号機は、政府の廃炉ロードマップ(工程表)で、溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出す最初の号機に位置付けられている。

 デブリの取り出しは当初、「2021年内」を目標としていた。しかし、英国で開発中だった遠隔操作機器「ロボットアーム」が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で日本に輸送できない―などの理由で取り出し目標は「1年程度」後ろ倒しになっていた。

 ロボットアームは7月12日、当初の想定から2カ月余り遅れて英国から到着した。国際廃炉研究開発機構(IRID)によると、神戸市で性能試験を実施した後、来年1月をめどにより実践的な試験を行う楢葉町の楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ施設)に運び込む予定という。

 廃止措置計画を了解

 【第2原発】廃炉が決定している福島第2原発についても動きがあった。6月16日、県と立地町の富岡、楢葉両町が、東電の廃止措置計画について、小早川智明社長に了解することを伝えた。

 東電の計画では、廃炉は4段階の工程を経て完了までに44年かかる予定だ。第1段階となる最初の10年で原子炉建屋などの除染や汚染調査を行う。第2段階で発電機タービンなど周辺設備、第3段階で原子炉本体、第4段階では原子炉建屋などを撤去する。

 7月6日には第1段階の除染作業に着手し、現場が報道陣に公開された=写真。三嶋隆樹所長は「福島第1原発の状況を踏まえながら、短縮すべきところはしっかり短縮していきたい」との考えを示した。第1原発と同時並行で進められる廃炉作業の道のりは長い。

 高線量の物品、保管把握せず

 【放射性廃棄物】福島第1原発では、放射性廃棄物の保管を巡るトラブルが相次いだ。発端は4月、管理上存在を把握していなかった高線量のコンテナ4基の発見だった。その後の調査で管理が不適切な物品が803カ所で確認され、このうち3カ所では、毎時1ミリシーベルトを超える表面線量が測定された。

 また、内容物の詳細を把握できていないコンテナが4011基あったことも分かった。原発事故後の混乱が原因とみられる。東電は「システムで管理できるよう是正し、適正化を図る」とするが、廃炉作業への信頼を損なうことになった。