地方自治総合研究所主任研究員・今井照氏に聞く 被災地復興に重き

 
「市町村の取り組みを支える必要がある」と語る今井氏

 震災と原発事故から10年6カ月で復興政策はどう変わったのか。元福島大教授で地方自治総合研究所主任研究員の今井照氏(68)=自治体政策=に課題などを聞いた。

 ―復興政策にどのような変化があったのか。
 「被災地の住民は、原発事故で避難を余儀なくされた。自治体は、古里にいない人も含めた住民の『生活の復興』と、被災地の『空間の復興』の両方に取り組む必要があった。一方、政府から見た復興とは、あくまで被災地をどうするかという『空間の復興』だった。このギャップが広がり、被災者支援よりも被災地の復興に重きが置かれたと思っている」

 ―転換点はあったのか。
 「一つの転換点は、東京五輪の招致だ。汚染水問題が注目され、当時の安倍晋三首相は『あれは福島の事故だから、東京には関係ありません』という言い方をした。これで全国的な課題であるはずの原発事故が、福島のものに限定された」
 「これに先立つ、2012年の福島復興再生特別措置法の成立も大きかった。福島県庁が成立を主導したもので、『福島は大変だから全国で特別に支えてほしい』という趣旨の法律だ。なぜ特別かというと、原発事故は福島で起きたからという理屈になる。ここでも原発事故は福島に限定された」

 ―どのように影響したか。
 「では、福島のために何をするんだという話になる。そこで出てきたのが福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想だ。ロボットなどの産業を興すことが、福島ならではのものということになった。これはあくまで被災地の復興であり、被災者の生活再建ではない」
 「被災者にとって最も重要なのは、『元通りの暮らしがしたい』ということだった。しかし、原発事故の特徴で、環境回復はなかなか難しかった。政府は除染に取り組んだが、限界があった。避難指示の解除も、元通りではなくある程度の条件が整った段階でのものになった。元の暮らしとは違うので、住民帰還が進まなくなった。そこで出てきたのが、移住政策の推進という方針転換だ」

 ―市町村はどのような対応が必要か。
 「移住は大事だが、それだけでは原発事故前の人口は回復できない。自治体の基本は、住んでいる人の規模に応じた行政を進めることだ。かつての人口を追い求めると、夕張のように破綻してしまう」
 「今は復興関係の予算が入っているが、数年かけて行政の在り方を見直していかなければならない。今は古里にいない住民の意見も踏まえながら、将来を決めていく時期だ。政府や県は、市町村の取り組みを財政的、技術的に支える必要がある」