仮置き場から運び出し...迫る「約束」の時 トラック十数台往復

 
特殊なフックが付いた重機を動かしてフレコンバッグをつり上げ、輸送するトラックの荷台に積み込む作業。地道な作業の積み重ねが、本年度末の搬出完了に結び付いていく=川俣町の政府管理の仮置き場

 東京電力福島第1原発事故後、県内には除染で発生した土壌などを集積する「仮置き場」が設けられた。政府は本年度末までに、帰還困難区域を除き、各地の仮置き場から除染土壌などを中間貯蔵施設に運び出す目標を掲げる。期限まで5カ月を切る中で、県民との約束は果たされるのか。課題などを探った。

 川俣町の山中にある仮置き場では、除染で出た土や草木などを詰めた大型土のう袋「フレコンバッグ」の運び出しが行われている。1袋の重さは中身によって異なるが、平均で1.6トンという。十数台のトラックが朝と昼、荷台に袋を載せて中間貯蔵施設(双葉町、大熊町)を往復している。

 トラックが列をなして到着するころ、現場では積み込み作業の準備が始まる。事前に袋の状態を確認しておき、必要な場合には新しい袋に詰め替える。所定の位置にトラックが停車すると、特殊なフックを付けた重機を使って袋をつり上げ、慎重に荷台に積み込んでいく。

 袋を積んだトラックは仮置き場内を移動し、荷台の高さに足場が組まれたゲートに到着する。ゲートではまず、袋のタグを点検する。タグは、どの袋がどのトラックに載せられ、どのように運ばれたのかを管理するために付けられている。1台で1回、おおむね6、7袋が運ばれる。

 その後、ロープやベルトなどを使って、高速道路を走っても袋がずれないように固定し、ブルーシートとカバーを掛けて、ようやく輸送に向けた準備が整う。安全を保つための作業の全てに、人の手が掛けられている。

 輸送現場を監督する環境省福島地方環境事務所県北支所の阿部拓洋首席除染・輸送推進官(50)は「現場では当たり前のことを当たり前にやる努力を続けていく。その結果、目標としている運び出しの完了に結び付けていきたい」と語った。

 土地の回復1カ所2年 施設撤去、かさ上げや整地

 県内各地で、除染土壌の運び出しを終えた仮置き場を原発事故前の状況に回復させる取り組みが進められている。川俣町の現場では、仮置き場だった場所を整地して水を張って均等にならし、元の水田に戻すための作業が行われていた。

 仮置き場では、フレコンバッグを積み重ね、中身や水が外部に漏れないような対策を施して除染土壌を保管する。このため、土地を以前のように利用できるようにするためには、施設の撤去、重みで沈んだ地盤のかさ上げ、農地の場合には土を入れた地力の回復などの対策が必要になる。

 環境省によると、地権者と話し合い、工法を決めて土地を地権者の希望に沿う形で元に戻すまでには、1カ所当たり約2年かかるという。政府の目標の通り、帰還困難区域以外で本年度中に除染土壌の運び出しが完了しても、仮置き場の完全な「解消」には、まだ長い時間がかかることが確実な状況になっている。

 水漏れ防ぎ、管理徹底

 保管が続く仮置き場の現状はどうなっているのか。福島市の山間部を進むと、大きなフレコンバッグの黒い山が目に飛び込んできた。この仮置き場に残されているのは約3万7000袋。水漏れなどを防ぐ強化ビニール袋2枚に覆われ遮光シートもかぶせられている。

 市は週1回、高さ1メートル地点の空間線量を測定する。雨水や地下水の点検も月1回実施しており、放射性物質の管理を徹底している。原発事故から10年半余りが過ぎても、地道な安全確保の取り組みが続いていた。

 市によると、市内には34カ所の仮置き場がつくられ、9月末時点で除染土壌が残っているのは9カ所。これまでに大きなトラブルはないという。市環境再生推進室の吉田広明輸送対策係長(55)は「地域住民の理解のおかげで、これまで仮置き場で保管することができた」と、住民の協力に改めて感謝の言葉を述べた。

 同市内にある除染土壌は、全て本年度中に中間貯蔵施設への搬出が完了する見通しという。吉田係長は「復興に向けてまた一歩進んだことになる」と語った。