「続けていればきっと若者が」 浜野はまなす会、双葉の神楽継承

 
再建された中野八幡神社で神楽を奉納する浜野はまなす会。会長の新家さん(右)らが継承を誓う=2021年8月8日、双葉町

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故では、被災地に根付いてきた伝統文化の継承が大きな課題となっている。いまだ避難が続く双葉町では担い手不足などの問題を抱えながら、地域の伝統芸能を守ろうと住民が奮闘を続けている。

 「神楽と太鼓を2時間練習して、あとの1時間は酒飲み。それが楽しかった」。双葉町中野、中浜両地区の神楽を継承する、浜野はまなす会長の新家俊美さん(67)は、気心の知れた仲間たちと練習した震災前の様子を恋しそうに振り返る。

 新家さんによると、浜野はまなす会は震災前、8月になると1週間ほど地元の浜野公民館に集まって神楽や太鼓の練習を行い、お盆に中野八幡神社に奉納するのが恒例だった。しかし町沿岸部にある両地区は震災の津波で壊滅的な被害を受け、獅子頭や太鼓などが流失。原発事故も重なり、12人ほどいた会員は県内外での避難生活を余儀なくされた。

 神楽の継承が危ぶまれる中、用具は県や町の補助制度を活用して新調。2019年4月14日には、震災後初めて同神社で神楽を奉納した。それでも練習ができたのは奉納前日、いわき市に集まって行った1日のみだった。本番当日の奉納は、伝統芸能を保存する町のプロジェクトの一環で録画され、手本としてDVD化された。

 しかし、避難生活が長期化する中、神楽の継承は簡単ではない。笛を担当していた会員が病で逝去。戦後間もなく行われた町村合併前までは、沿岸部一帯が同じ請戸村だった縁で、昨年からは浪江町中浜地区の住民に会員となってもらい、なんとか笛の吹き手を確保した。

 さらに中野、中浜の両地区は、産業団地や県復興祈念公園の整備地となり、地元に戻って家を再建することもできなくなった。その土地に住み、地域コミュニティーを育む中で継承されてきた神楽をどう守っていくか。

 新家さんは「若者が入ってくればいいが難しいだろうな」と悩みながらも、「俺が生きているうちはなくさない。続けていれば、きっと若者が継いでくれる」と気を吐く。