避難先「お茶会」が結ぶ絆 いわき・四倉南団地

 
住民交流会で参加者と話す避難者地域支援コーディネーターの佐々木さん(左)=いわき市営四倉南団地

 いわき市四倉町の市営四倉南団地の集会所に楽しそうな声が飛び交う。「お茶会」と称して市社会福祉協議会が開いた住民交流会の参加者にとってはおなじみの光景だ。この団地は2014(平成26)年、東日本大震災の災害公営住宅として整備されたが、現在は一般市民も暮らす市営団地として運用されている。入居者の枠組みが変わったからこそ、震災で避難してきた住民の孤立を防ぐ取り組みが重要度を増している。

 6月下旬の交流会には団地に住む70~80代の女性6人が参加した。「間違い探しをしましょう」。運営を担う市社協の避難者地域支援コーディネーター佐々木早苗さん(55)が参加者に呼びかけ、2枚のイラストを配る。「どこが違う?」「見つけた」。ペンを手にした参加者はすっかり打ち解けた様子で語り合った。

 この団地での交流会は17年に始まった。水曜日に体操や手芸、認知機能テストなど、さまざまな活動を通して住民同士が親睦を深める。団地に1人で暮らす遠藤昌子さん(74)は毎回のように参加しているといい「話し相手がいると楽しい。交流会をきっかけに住民同士の触れ合いが増えた」と笑顔を見せる。

 交流会は団地内の孤立防止に効果がある一方、双葉郡からの避難者らが暮らす近くの県営四ツ倉団地など周辺地域の住民との交流は思うように進んでおらず、課題が残っている。二つの団地合同の交流会はこれまで数回開かれたが、新型コロナウイルスの影響などで途絶えた。

 遠藤さんは「双葉郡の人と一緒に(交流会を)できればいいと思うが、新型コロナもあって交流がなくなってしまった」と残念がる。こうした声を受け、佐々木さんらは双葉郡の避難者を招いた交流会の復活などを視野に入れており、避難者地域支援コーディネーター制度を生かした新たな交流の可能性を模索している。

 支援のニーズ、情報共有

 「これまでも個別支援に取り組んできたが、避難者が今生活している場で安心して暮らせるために、地域で支えるようにしたい」。いわき市で6月に開かれた連携会議で、新たな制度を説明した県社協の避難者生活支援・相談センター長の佐藤正紀さんは力を込めた。

 連携会議に集まったのは市社協の関係者をはじめ、市内に駐在する楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江5町の各町社協コーディネーターら約20人。顔合わせを兼ねて意見交換の場をつくった。

 いわき市社協は下部組織として地区ごとに協議会を設け地域住民のニーズに合った福祉活動に取り組む。地域の実情に明るい地区協議会職員と、コーディネーターが連携することで、避難者の孤立を防ぐ有効な取り組みを探る。

 四倉地区協議会の吉田優美さんは「支援のニーズについて情報交換できる場があるのは助かる」と歓迎する。地域で住民のつどいを開いた際に、参加をためらう双葉郡からの避難者がいたことを振り返り「地域になじむには時間がかかるかもしれない」と地元住民と避難者の関係をつくることの難しさを指摘した。

 「コーディネーター」地域と橋渡し

 県社会福祉協議会が避難者の孤立を防ぐ対策として本年度に新設したのが「避難者地域支援コーディネーター」だ。東京電力福島第1原発事故で復興公営住宅に入居する避難者と生活する地域との結び役を担う。避難者と「顔の見える関係」を築いて地域ごとの問題点を共有し、見守りの目を充実させていく狙いがある。

 コーディネーターは、復興公営住宅がある地域を中心に、17市町村の生活支援相談員26人が務める。自治会や民生委員らと協力して交流行事への参加を後押しするなどして、避難者の孤立を防ぐ活動に取り組む。

 県社協によると、東日本大震災後、最も多い時期で約300人の生活支援相談員が活動した。しかし、担当する市町村以外の地域で暮らす避難者について、相談員同士で情報が共有されていなかった。県社協の避難者生活支援・相談センター副センター長の山沢修一さん(68)は「避難者支援の問題を共有し、必要に応じて連携や連絡が取れる存在が必要だった」と振り返る。

 「小さなことから地域とつながりを持ち、避難者の心落ち着く生活につなげることがコーディネーターの役割だ」と山沢さん。各地のコーディネーターが課題の洗い出しを進めており、避難者と地域住民が集うイベントや祭りを念頭に、地域の事情に合わせた交流の機会をつくりたい考えだ。

 おせっかいでも積極交流を 福島大行政政策学類・鈴木典夫教授

 福島大災害ボランティアセンター顧問の鈴木典夫行政政策学類教授(61)は「復興公営住宅で暮らす避難者は、年月の経過や新型コロナウイルス感染拡大などを背景に、地域内での交流が少なくなってきている。避難者に積極的に関与する支援が重要だ」と語る。

 鈴木氏は、阪神大震災の災害復興住宅では入居者の高齢化から年間50~70人の孤立死が発生し続けていると説明。東日本大震災から12年目に入った本県について「もともと高齢の入居者が多かった復興公営住宅では高齢化の進み方が早いと感じる」と分析し「阪神大震災と同じ状況を繰り返さないために、人と人との交流を起こしていくことが大切だ」と警鐘を鳴らす。

 具体策として、地域外の人と交流できるイベントに加え、地域内の住民が気軽に語り合えるサロンが有効だとした上で、デジタル技術を生かしてオンラインでの交流も選択肢に挙げる。

 避難者地域支援コーディネーターについては「ひきこもっている避難者をみんなの輪の中に入れる橋渡し役のような役割も期待される」と指摘。「おせっかいでもいいからもっと積極的に関わり、主体性を築いていく必要がある」と提起した。