「海洋放出」設備工事着工 福島第1原発、海底トンネル掘削進む

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11年6カ月。本県復興の大前提となる第1原発の廃炉では溶け落ちた核燃料(デブリ)や処理水の扱いを巡り、工程ごとに一進一退の状況が続く。

 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水を巡り、東電が海洋放出に使う海底トンネルの掘削など放出設備の工事に着手した。政府と東電は来春をめどに海洋放出を始める方針を崩していないが、8月から本格的に始まった工事は遅れており、気象や海の状況次第では完了が来夏以降にずれ込む可能性もある。最大の課題といえる国内外の理解醸成もいまだ不十分で、政府と東電のもくろみ通りに進むかどうかは不透明だ。

 東電は処理水に含まれる放射性物質トリチウム濃度を国の基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満になるよう大量の海水で薄め、基準値を下回ったことを確認した上で、海底トンネルを通して沖合1キロの地点から海へ流す計画だ。

 処理水は敷地内の約1000基のタンクで保管されているが、その7割が基準値を超える放射性物質が残る「処理途上水」で、放出前に多核種除去設備(ALPS)で再浄化する必要がある。

 タンクの容量は約137万トンで、約96%に当たる約131万トン(1日時点)を使用しており、来年にも満杯になる見通しだ。東電は「タンクを増やせば廃炉作業に支障が出る」と主張している。ただ、海洋放出を始めても処理水は増え続けるため、完了には2051年度までかかる見込みだ。

 併せて東電は、処理水の元となる汚染水の発生量抑制も進める。溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水や建屋に流れ込む地下水、雨水などにより、現在は1日当たり平均約130トンの汚染水が発生しているが、東電は25年度以降に1日当たりの発生量が100トンになるよう対策を講じ、段階的に毎年、10トンずつ減少させることを想定している。

 地元の理解醸成進まず

 処理水の海洋放出には廃炉と復興を前進させる側面がある一方、復興の途上にある地元の漁業関係者を中心に、幅広い業種で依然として新たな風評被害への懸念が強く、理解を得られるめどは付いていない。

 政府と東電は「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」と2015(平成27)年に県漁連と約束した。西村康稔経済産業相は今年8月、いわき市で県漁連の野崎哲会長と会談し、約束を守る方針を伝えた。とはいえ、「関係者の理解が得られた」と、誰がどのように判断するか、はっきりしないままだ。政府が明確な道筋を付けられるかが厳しく問われる。

 その前提として政府は、基金を活用した風評対策や支援策を打ち出し、海域の放射性物質濃度のモニタリング(監視)を拡充する計画を決定。テレビやインターネットで全国の消費者への情報発信を強化し、漁業者や住民と少人数による車座の意見交換会を開いて対話を深める方針も示した。

 野崎会長は「海洋放出に反対の立場は変わらない。ただ、県民として処理水の問題には真摯(しんし)に向き合っていかなければならない」とした上で「対話の道はある。政府や東電の考えを漁業者や県民、国民にしっかりと説明し尽くしてほしい」と語り、政府と東電が責任を果たすよう訴えている。