残る市民...置いてはいけず 南相馬、元原町区役所長・鈴木さん

 
復興状況をまとめた資料に目を落とす鈴木さん。「避難した人に早く戻ってきてほしいという一心だった」と振り返る

 南相馬市は、市役所が緊急時避難準備区域に入ったが、行政機能をそのまま残す道を選択した。「避難できない市民を置いてはいけない。(移転には)賛成しかねる」。当時、市原町区役所長だった鈴木好喜さん(71)は市役所機能の一部を残して職員は市内にとどまるよう桜井勝延市長に進言した。

 沿岸部は東日本大震災の津波で甚大な被害を受ける一方、東京電力福島第1原発事故は悪化の一途をたどり、避難する市民が相次ぐなど状況は混乱を極めた。

 市執行部内で「行政機能も移転すべきではないか」との議論が持ち上がった。それでは、避難できず、残された市民のケアはどうするのか―。幹部会議で口火を切ったのは鈴木さんだった。「健康状態が悪い人や体が不自由な人は自宅に残らざるを得ない。行政機能を移すにしても支所、出張所として市役所に一定の機能を残すべきだ」と主張。市は最終的に、行政機能をとどめる方針を決定した。

 市内では第1原発の半径20キロ圏内の小高区が立ち入りが制限される警戒区域となり、市役所がある原町区などは緊急時避難準備区域と計画的避難区域に指定される一方、30キロ圏外の鹿島区は避難区域に含まれず、市域は四つに分断された。

 復旧・復興が本格化するにつれ、市民の間には行政機能を残したことで影響を最小限に抑えられたとの認識が広がった。自宅を津波で失った鈴木さんは原町区役所に寝泊まりしながら震災対応の激務をこなした。「避難した人に早く帰ってきてほしい、その一心だった」と思いを口にした。