ワインの名産地化に挑戦 川内、かわうちワイン社長・猪狩さん

 
ワイン造りに励む猪狩さん。「ワインを通して復興の姿を広めていきたい」と村の発展を目指す

 緊急時避難準備区域と、住民の立ち入りが規制された警戒区域に指定され、全村避難を経験した川内村。「ワインを新たな村の特産品にして復興の姿を全国に広めていきたい」。ワイン製造会社「かわうちワイン」社長の猪狩貢さん(73)はワインを軸に村の発展を目指している。

 東日本大震災当時、副村長だった猪狩さんは村民と一緒に郡山市に避難した。村役場がある中心部に設定された緊急時避難準備区域の解除を受け、村は2012(平成24)年1月に「帰村宣言」し、段階的な帰還へ歩み出した。

 しかし、当時は放射線の健康影響に関する知見に乏しく、村内に警戒区域が残されたため、帰還には不安もあった。猪狩さんら村執行部を帰村へと突き動かしたのは「われわれが戻らないと復興は進まない」との強い決意だった。

 村を支える新しい産業を模索する中、日本葡萄(ぶどう)酒革進協会との交流をきっかけに、村内でワイン造りに向けた取り組みが動き出した。ノウハウが全くない状態から、村民や外部の協力者を巻き込んで16年からブドウの栽培が始まり、ワイナリーの整備などの準備を積み重ねてきた。

 専門知識がある村地域おこし協力隊の活躍もあってブドウの栽培や醸造は軌道に乗り、同社は今年1万1500本のワインの出荷を見込む。「地域に愛され、いつかワイナリーで飲食や宿泊ができるようになれば」。ワインの名産地化へ挑戦は続く。