富岡につながり...夜の灯 渡辺さん「集まって交流できる店を」

 
「富岡に帰郷した人や訪れた人が集まる場にしたい」と語る渡辺さん(中央)とスタッフ

 東京電力福島第1原発事故による避難指示が富岡町と浪江町、川俣町山木屋地区、飯舘村の帰還困難区域を除く地域で解除されてから6年が過ぎた。長期避難で地域から失われた活気をどうやって取り戻していくか。関係者は復興に懸ける思いを胸に、さまざまな分野でなりわいの再建を目指して汗を流し続けている。

 渡辺翔太さん 36

 富岡町のJR富岡駅から徒歩で30秒。串揚げ居酒屋の串誠は昨年6月にオープンした。運営会社「誠屋」取締役の渡辺翔太さん(36)は「富岡に帰郷する人や富岡に住む人が気軽に集まって交流できるような店にしたい」と開店の経緯を語る。

 富岡駅前は東日本大震災の津波で被害を受けた地域だ。原発事故による長期避難の影響もあり、現在の風景は震災前とは大きく異なっている。誠屋はもともと渡辺さんの祖父が起こした会社。駅前でスーパーを営み、周囲に立ち並ぶ飲食店などとともに、地域ににぎわいをもたらしていた。

 父吏(つかさ)さんは避難先の仮設店舗で町民を支えた後、2017年の町の避難指示解除を受け、再建された富岡駅前に「富岡ホテル」を仲間と共に開業した。「いずれは父の後を継ごうと考えていた」。渡辺さんはホテルの運営に合流すると、さらに「復興には飲食店も必要だ」と考え、かつて大阪に旅行した時に心を奪われた串揚げの店をホテルの前に構えることにした。串揚げの「串」と誠屋の「誠」から店名を名付けた。

 駅前の歴史を継いだ居酒屋が串揚げやこだわりの料理で出張者や移住者、そして町民を結んでいる。「これからは地元産の農作物を積極的にメニューに取り入れ、お客さまにもっと喜んでいただきたい」。富岡の夜に、店の灯がともる。