デブリ取り出し...高い壁 1~3号機の現状、原発事故から12年

 

 東京電力福島第1原発事故から12年が経過し、炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機の状況が少しずつ明らかになってきた。人が近づいて作業することができないほど放射線量が極めて高く、廃炉工程で最難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出しに向け、1~3号機はどうなっているのか。現状を探った。

 1号機、圧力容器土台の損傷大

 東京電力は、1号機の原子炉格納容器で行った内部調査で、原子炉圧力容器を支える円筒状の土台(ペデスタル)の内側にも初めて水中ロボットを投入した。ロボットが撮影した映像から、内壁はほぼ全周で鉄筋がむき出しになっている状態が確認された。事故から12年が過ぎてようやく得られた情報も多く、東電は調査結果を基に、炉内の堆積物やデブリの取り出しに向けた検討を本格化させる。

 約5年ぶりとなった内部調査は昨年2月に始まった。東電は今年3月まで1年以上かけ、複数のロボットを使って調査を進めた。土台の内部調査は最後の工程に組み込まれた。土台の内側のうち、4分の3周程度で撮影できた映像をパノラマ合成した結果、ほぼ全周でコンクリートが剥がれていたことが分かった。

 土台の底部にはデブリとみられる堆積物に加え、本来であれば原子炉圧力容器に接続されている制御棒を収納するための円柱状の構造物(CRDハウジング)なども落下している様子が確認された。この構造物の内部にはデブリとみられる塊が付着しており、東電は、事故時にデブリが放った高熱により原子炉圧力容器に穴が開いたとみている。

 東電は、内壁の大部分で損傷が確認された土台について、数カ月かけて耐震性や健全性を再評価する方針だ。ただ、本県沖を震源に2年続けて発生した震度6強の地震に耐えていることを踏まえ「土台の機能は維持されている」との見解を示している。

 今回の内部調査では、格納容器の底にたまっている砂状や泥状の堆積物も採取された。東電は試料の性状などを分析した上で、デブリの取り出しや堆積物除去の工法の検討に役立てる考えだ。分析には専門家による検討なども含めて1年程度かかる見通し。

 課題となっている使用済み核燃料プールからの核燃料取り出しに向けては、東電が本年度中にも、建屋を覆う大型カバーを取り付ける計画だ。まずはカバー内でがれきの撤去などを行い、実際に取り出しが始まるのは2027~28年度と見込まれている。プールには392体の使用済み核燃料が保管されている。

 2号機、ロボットアーム鍵握る

 2号機では本年度後半にも、デブリの試験的な取り出しが始まる見通しだ。東京電力は、作業に伴う放射性物質の飛散を防ぐための隔離部屋の設置や、取り出しに使う遠隔操作機器「ロボットアーム」の改良といった準備を急ぐ。デブリの取り出しは原発事故後初めてで、廃炉工程の進展を左右する試金石となる。

 東電は2012年、2号機で原子炉格納容器の内部調査を始めた。メルトダウンを起こした1~3号機の中で最初だった。19年まで計6回にわたり調査した結果、原子炉圧力容器の真下にある格子状の作業用足場の一部で、ゆがみや脱落が確認された。ほかにも圧力容器を支える円筒状の土台(ペデスタル)の底部では核燃料集合体の一部や、小石状、粘土状の堆積物が広い範囲で見つかっている。

 特に19年の調査では、2本の「指」が開閉する装置を使って堆積物に触れた。その結果、デブリとみられる小石状の堆積物や、構造物の一部と推定される堆積物が動かせる状態であることが分かった。

 このため東電は、内部の状況把握が最も進んでいる2号機からデブリの取り出しに着手する方針を決定。格納容器側面の貫通部から最長22メートルまで伸びるロボットアームを進入させる計画で、アームの先端に取り付けた器具を使い、ごく少量のデブリを採取する。

 東電は準備に当たり、ロボットアームを挿入する貫通部付近に三つの部屋を設けた。現在は貫通部に通じるハッチを開ける作業などに取り組んでいる。

 成否の鍵を握るのがロボットアームだ。楢葉町にある日本原子力研究開発機構(JAEA)の楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ施設)に運び込まれ、改良が進められている。デブリの取り出しは21年中の開始を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で英国での試験が停滞したほか、アームの改良にも時間を要し、2回の延期を余儀なくされた。

 3号機、「冠水」「気中」工法を検討

 3号機では使用済み核燃料プールから核燃料集合体566体の取り出しが2021年2月末に完了した。同様にメルトダウンを起こした1、2号機と比べてリスクが低減された形だ。東京電力は、プール内に残っている制御棒など放射線量が高い機器を取り出す作業を続けながら、デブリの取り出しに向けた工法の検討を進めている。

 東電が17年7月に行った原子炉格納容器の内部調査では水中ロボットの映像から、格納容器の底部にデブリの可能性が高い物体が初めて確認された。デブリとみられる岩状や砂状の物体が広範囲に積み重なったり、配管などに付着したりしているのが分かった。

 事故時の水素爆発で大破した原子炉建屋は、使用済み核燃料プールから核燃料を取り出す過程でがれきが撤去され、環境の改善が進んだ。東電は作業中の放射性物質の飛散などを防ぐため、屋根に「かまぼこ形」のカバーを設置。プール内にあった核燃料を第1原発敷地内の共用プールに移送し、約1年11カ月かけて全ての燃料を取り出した。

 これで3号機の廃炉工程は次の段階へ前進した。デブリの取り出しに向けて浮上した案が、原子炉建屋全体を水槽のような構造物で囲い、建屋ごと水没させる「冠水工法」だ。水は放射線を遮るため、作業時の被ばくや放射性物質の拡散を抑えられるという利点があるものの、前例のない試みとなる。

 廃炉工程の戦略プランを立てる原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は冠水工法と、空気中で取り出す「気中工法」を候補に挙げているが、工法や開始時期を絞り込めていない。

 きちんと耐震評価を 日本原子力学会、福島第1原発廃炉検討委員長・宮野広氏

 日本原子力学会で福島第1原発廃炉検討委員長を務める宮野広・元法政大大学院客員教授(流体振動、システム安全工学)は、内部調査が行われた1号機の状況について「原子炉圧力容器を支えるコンクリートの土台の内側がかなりの領域で損傷している。損傷はもう少し少ないと思っていたので、驚いている」との認識を示した。

 宮野氏は、同じくメルトダウンを起こした2、3号機と比べて「デブリの温度が高く、量も多かったことが原因で、コンクリートが広範囲で損傷したのではないか」と要因を推察した。その上で「鉄筋が残っているので、耐震性は問題ないと思うが、外側のコンクリートがどの程度残っているかを確認し、きちんと耐震評価をやらないといけない」と東電に注文を付けた