強く生きる、静かに誓う 福島県内各地で復興・追悼行事

 

 甚大な被害をもたらした東日本大震災から11年となった11日、県内各地でさまざまな追悼行事や復興を願う取り組みが行われた。犠牲になった人を思い静かに手を合わせ、震災の記憶や教訓の伝承を誓う多くの県民の姿があった。

 双葉に笑顔、未来描く

 【双葉町】東京電力福島第1原発事故に伴う全町避難が続く町内で12日まで、町を芸術で盛り上げるプロジェクトの壁画制作が行われている。町にゆかりのある25人の笑顔を4カ所に描き、壁画の世界でひと足早く、にぎわいを取り戻した双葉を表現する。

 企業理念などを壁画で表現する会社「OVER ALLs(オーバーオールズ)」(東京都)や、町民有志でつくる「FUTABA Art District(フタバ・アート・ディストリクト)実行委員会」の主催。

 制作は第8弾で、JR双葉駅近くにある2階建ての建物や消防屯所などに描いている。今回の制作は10日に始まり、新しい未来への一歩という思いを込め、12日夕方まで3日間かけて行われる。

 オーバーオールズ社長の赤沢岳人さん(40)は「アートは人を未来に呼び込める。笑顔を描いた絵を見て『何かやったろうかい』という気持ちになってもらえれば」と思いを語った。

双葉町民の肖像画※壁画に町民らの肖像を描くスタッフ=11日午前11時15分ごろ、双葉町



 思いのせた木の葉の舟

 【相馬市・原釜】鎮魂や復興のメッセージを書いた葉を海に流す「木の葉の舟流し」が海岸で行われた。

 慰霊碑前の浜辺に市民ら約100人が集まり、午後2時46分に黙とう。舟に見立てた約1万枚のタイサンボクの葉を海に流した。メッセージは地元や宮城、埼玉、愛知、兵庫の子どもたちや遺族から寄せられ「いつまでも見守っていてください」などとつづられた。

 相馬市の会社員三瓶由佳さん(38)は震災を知らない長女希さん(10)=中村二小4年=に震災の記憶を伝えようと訪れた。「人を守れる強い人になりたい」と書き込んだ希さんは「津波で家族を亡くした友達がいる。家族を大切にしたい」と海を見つめた。

木の葉の舟流し※鎮魂や復興への思いを託した木の葉の舟を海に流す参加者=午後2時50分ごろ、相馬市原釜



 「先人の丘」完成

 【浪江町・請戸】請戸共同墓地跡地に整備された「先人の丘」の完成式が行われ、出席者が震災の記憶を継承する場として守っていくことを誓った。

 吉田数博町長が「先人を敬う鎮魂の場であり、震災で離れ離れになった町民を結び付ける場所にしたい」、鈴木市夫請戸区長が「先人を敬いながら地域の人たちが集い、震災を語り継げるような場にしたい」とそれぞれ述べた。

 請戸共同墓地は津波で墓石が倒壊し、遺骨が流出。その後、多くの墓は町が整備した町営大平山霊園に移設されたものの、一部の墓石は墓地に野積みで置かれたままになっていた。このため町は、津波で破壊された墓石を集めて土をかぶせ、直径40メートル、高さ5メートルの「先人の丘」を整備した。

先人の丘※津波被害の共同墓地跡に、流出した墓石を埋めて造られた「先人の丘」で行われた完成式=午前11時15分、浪江町請戸



 弔いの花、夜空染め

 【双葉町・伝承館】同館東側の町沿岸部で、震災や原発事故の影響などで犠牲となった人たちを追悼する花火200発を打ち上げた。

 同館前広場には、復興への願いや未来へのメッセージなどが書かれたキャンドル2000個が並び、来場者が復興などを祈りながら、花火とキャンドルの明かりを見守った。キャンドルナイトは、復興支援団体「ラブフォーニッポン」、県相双地方振興局、日本キャンドル協会の共催。

花火とキャンドル※追悼の意を込め打ち上げられた花火とキャンドル=午後6時40分ごろ、双葉町



 感謝と教訓の花咲く

 【双葉町・伝承館】鎮魂や復興への祈りを花びらや色砂にのせて花絵を制作する追悼行事「フラワーズエール」が行われた。参加者が「感謝と教訓」をテーマに、思いを込めて制作した。

 花絵制作の第一人者藤川靖彦さんのほか、町の復興支援員らが参加。花絵は縦2メートル、横4メートルのキャンバス上に、午後2時46分を指す時計や希望の光、教訓を伝承する意味を込め本や子どもたちなどが描かれた。赤や白などのカーネーション約2300本分の花びらや7色の砂を使用した。

 最後に来場者らが「希望」の花言葉を持つガーベラを献花し、完成させた。

 献花に参加した千葉県の高校生安藤幸太さん(18)は「震災の日に福島で手を合わせることができてよかった。春から、震災を機に目指した消防士になるので頑張る」と話した。

フラワーズエール※「感謝と教訓」をテーマに、花びらを使って描かれた花絵=午後0時20分ごろ、双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館



 青空に大きな夢

 【Jヴィレッジ】復興支援イベント「3・11夢の大凧(おおだこ)あげ」が行われ、県内の子どもたちの夢や希望が描かれた大きなたこが青空を舞った。

 県や復興支援団体「ラブフォーニッポン」などが主催する追悼復興祈念行事「ソング・オブ・ジ・アース311」の一環。たこは、広野町振興公社が特産品として育てているバナナの茎を原料にした和紙を使い、新潟県三条市の職人が14枚を制作した。「おだがいさま」や「夢は大きく」など、子どもたちの未来への思いが詰まった色とりどりのたこが大空を彩った。

 敷地内で、キャンドルナイトも行われた。アーティストのキャンドル・ジュンさんらが制作した約2000個のキャンドルが並び、ピッチを優しい光が包んだ。

大凧あげ※子どもたちの夢や希望を乗せて、大空を舞うたこ=午後3時15分ごろ、Jヴィレッジ



 13人、胸に

 【白河市・葉ノ木平】大規模な土砂崩れで13人が犠牲となった葉ノ木平震災復興記念公園で追悼供養式典が行われた。

 参列者が「復興の記念碑」の前で黙とうをささげ、手を合わせた。向寺自治会長で聯芳(れんぽう)寺住職の竹貫博隆さん(73)があいさつで冥福を祈った。救護活動した日体大大学院教授で医師の朝日茂樹さん(69)が「亡くなった13人の名前を心に刻んでいる。来年もここに集うことができることを願う」と述べた。土砂崩れで母を亡くした須藤里子さん(54)は「ここに来るといろいろ思い出す。11年たっても気持ちは変わらない」と語った。

追悼供養式典※犠牲者に祈りをささげる参列者=午前11時10分、白河市葉ノ木平



 灯籠1700本

 【富岡町・太田公園】震災の犠牲者に鎮魂の祈りをささげるイベント「富あかり」が行われ、竹灯籠の明かりが町を照らした。

 まちづくり会社「とみおかプラス」の主催。竹灯籠でつくる「富岡は負けん」のメッセージや熊本県の幼稚園児が作製した三角灯籠など約1700本が並んだ。公園を訪れたいわき市の会社員鈴木瞳さん(37)は「町は少しずつ復興が進んでいるように感じる。活性化を願いたい」と思いを語った。

竹灯籠のメッセージ※竹灯籠で作ったメッセージ=午後6時20分ごろ、富岡町太田公園



 花に祈り

 【楢葉町・ここなら笑店街(しょうてんがい)】町が「ならは3・11祈りのつどい」を開いた。訪れた人たちが献花し、震災犠牲者を悼んだ。

 町はこれまで追悼式を行ってきたが、広く町民が追悼できる場所をつくろうと、今年は式典は行わず、代わりに商業施設駐車場に献花台を設けた。

 日没後には、町民手作りのキャンドルも並べられた。南相馬市の建設現場からの帰りに立ち寄った栗原勇気さん(26)は「献花をしたのは初めて。震災命日に、亡くなられた人のご冥福を祈る場所があってよかった」と話した。

商業施設駐車場に設けられた献花台※商業施設駐車場に設けられた献花台。幅広い人が祈りをささげた=楢葉町