【避難解除半年】復興へ企業の『覚悟』 産業再生、定住への一歩

 
「企業が根付くことで雇用が生まれ、人の定住につながる」と話す伊藤さん。伊藤工務店双葉事務所の奥には、東日本大震災・原子力災害伝承館が整備されるなど、復興産業拠点の景色も徐々に変化している=双葉町中野

 【双葉町】東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域に設置された特定復興再生拠点区域(復興拠点)の一部が先行解除され、双葉町は4日、大熊町は5日、富岡町は10日で半年となる。双葉町は避難指示解除準備区域の解除と復興拠点全域の立ち入り規制緩和、大熊町は復興拠点の一部規制緩和を行った。震災と原発事故からあと半年ほどで丸10年。先行解除後の3町の現状や復興への課題を追った。

 「企業が根付くことで雇用が生まれ、人の定住につながる」。双葉町産業交流センターや県の東日本大震災・原子力災害伝承館などが整備され、景色に変化が生まれ始めた同町中野の復興産業拠点で、伊藤工務店社長の伊藤哲雄さん(62)=双葉町商工会長=は産業を通じた町の復興を語った。

 総合建設業の伊藤工務店。本社は同町細谷だが、中間貯蔵施設の整備地にあり跡形もない。震災と原発事故後、広野町に事務所を構え、事業を継続してきた。

 ことし3月の一部避難指示の先行解除や立ち入り規制の緩和など、双葉町の復興が本格化するのに合わせて、伊藤さんは「古里のために」と復興産業拠点の一角に双葉事務所を構え、8月1日に業務を開始した。

 原発事故後、全国の大手建設業者が参入する復興関連の工事に携わる中で痛感したのが、大手との技術力の差だ。東電は廃炉作業に地元企業が携われるようにしたいとの考えを示しているが、伊藤さんは「地元企業がもっと競争力をつけないと参入できない」と課題を指摘する。

 一方、地元企業を育て、産業を再び町に根付かせることは、町外からの新規就業者の移住、定住につながる。人口の増加は、サービス業の再生にも欠かせない。地元企業の再生や定住人口の増加は、町の税収増加にも直結する。

 復興庁や町などが行っている住民意向調査で「(将来の希望も含め)戻りたいと考えている」とする町民の割合は、毎年1割ほどにとどまる。伊藤さんも「復興拠点の避難指示が解除されても、町民みんながそろって、じゃあ帰ろうとはならないのではないか」と見通す。だからこそ、新規就業者らが移住しやすい居住環境や受け入れ態勢の整備が欠かせないと考える。

 震災と原発事故から10年目で、ようやく復興のスタートを切った双葉町。伊藤さんはこう思う。「双葉も新しいまちに変わったんだと感じてもらうことが、将来の帰還につながる。その新しいまちづくりのために、ここで生きていく」