【検証・放射線】SNSに答えを求めて 影響力の強い投稿転載

 
原発事故から半年間に放射線情報を発信したインフルエンサーを中心としたリツイートのネットワークを可視化した図。3グループで色分けしており、感情的な表現が多いオレンジ色のグループの勢力が最も大きかった(坪倉正治教授提供、画像を一部加工しています)

 東京電力福島第1原発事故以降、県民はこれまで考えることがほとんどなかった放射線について考えなければならなくなった。「福島は危ない」「健康被害の心配はない」。対極的な意見も飛び交う中、会員制交流サイト(SNS)に答えを求める人が出た。

 「SNSは知りたい情報のみを知ることができ、それと反対の情報に触れることがほとんどなくなるという特徴がある。『放射線は危ない』と思って調べ始めた人は危ないと指摘する情報を山ほど見つけ『ああ、やっぱり危ないんだね』と確信することになった」。原発事故直後から本県で医療活動を続ける医師の坪倉正治(38)=福島医大放射線健康管理学講座教授=は、SNSが人々に与えた影響を語った。

 「インフルエンサー」

 坪倉ら研究チームはツイッターに着目し、2018(平成30)年に研究成果をまとめた。原発事故発生からの半年間に、ツイッター上で発せられた放射線や原発事故に関係したツイートとリツイート約2500万件を分析した研究だ。他人の投稿を転載するリツイートは、ごく少数の影響力の強い発信者「インフルエンサー」のツイートに対して繰り返し行われており、上位100人の発信者に対するリツイートが全体の31.1%に上ることが分かった。

 研究チームはインフルエンサーを、その発言内容から3グループに分類した。科学的事実に基づいて発信するグループと、感情的な表現が多いグループ、メディア関係のグループ。リツイートはそれぞれのグループ間で繰り返され、グループの垣根を越えた情報交換は少なかった。研究チームは「何か情報を探すためにツイッターを利用した際、最初に見つけた情報と同じタイプの偏った情報に多くさらされる可能性を示唆している」と分析した。

 エコーチェンバー現象―。閉鎖的な空間の中でコミュニケーションを繰り返すことで考えていることがひたすら増幅されていく効果を示す言葉。SNSの特徴の一つとされている。坪倉は言う。「ツイッター上で『福島は危険だ』と考える人の周りにはそう考える人が集まった。自分が正しいと思うことに『そうですね』と共感してくれる人ばかり集まる構造は、地域住民が福島を正しく知ろうとする際の弊害になり得るものだった」

 淡々と伝える重要性

 原発事故から間もなく10年。当時のような混乱はなくなったが、放射線の健康影響を巡る誤った理解や偏見は根強い。坪倉は情報を淡々と伝えていくことの重要性を強調する。「(情報の受け手が)放射線の情報に触れるのが1週間で3分だけでもいい。情報の発信を維持していくことが大事だ」(文中敬称略)