【検証・県民健康調査】「甲状腺検査」意義と問題...精密に議論を

 

 放射線の影響はあるのか―。東京電力福島第1原発事故を受け、当時18歳以下だった県民を対象に始まった甲状腺検査。検査を通じてがんが見つかり、県民の関心が高まった。

 「とにかくまず(旧ソ連の)チェルノブイリ(原発事故)と比較することが重要」。福島医大甲状腺内分泌学講座教授の鈴木真一(64)はそうした考えで研究を進め、昨年、ある論文を発表した。

 甲状腺検査で見つかった甲状腺がん138症例を調べた結果、がんの病理学的分類や、遺伝子異常のパターンがチェルノブイリとは異なっていたとする内容。福島県で見つかっているがんに放射線が影響しているとは考えにくいことを、病理の形や遺伝子から裏付けた形だ。

 放射線の影響の有無を巡っては専門家で組織する県民健康調査検討委員会が甲状腺検査の1巡目と2巡目で見つかったがんについて「被ばくとの関連は認められない」などと判断している。がんが見つかった年齢層が高く、原発事故当時5歳以下から多くのがんが見つかったチェルノブイリと異なること、そもそもチェルノブイリと比べて被ばく量が低いと推測されることなどが、その理由だ。

 検査でこれまでに245人が甲状腺がん、またはがんの疑いがあると診断されたが、放射線による健康影響は確認されていない。

 一方で、甲状腺検査を受けることによる「不利益」が指摘されている。放射線の影響とは関係なく、必ずしも治療の必要のないがんを見つけているとする「過剰診断」の問題だ。

 韓国で近年、広範囲に甲状腺の超音波検査が行われるようになった結果、甲状腺がんの診断が急増したことが知られている。検査をこのままの形で続けていくべきかどうか、検討委員会で議論されてきた。

 「たぶん違うとは思いますけど、放射線の影響じゃないですか、私のは」。福島医大で甲状腺がんの手術を担当している鈴木は、手術を受ける患者からそう聞かれることが多いという。「県民の放射線に対する不安は100%消えたわけではない」と痛感する。

 福島医大甲状腺・内分泌センター長の横谷進(69)は「放射線の健康影響について『もう大丈夫』と県民が理解できるだけのデータをまだ提供しきれていない。もう少し時間をもらって、証明していけたらと考えている」と検査継続の意義を強調する。

 本県と海外...背景違う

 横谷は、一般的に甲状腺の集団検診が過剰診断を引き起こすとしても、原発事故が起きた本県で行う検査は韓国など海外の検査とは背景が違うと指摘した上で、こう述べた。「過剰診断については可能な限り精密に議論を行い、その上で検査を続けるかどうか検討してほしい」(文中敬称略)