【検証・除染】仮置き場確保の壁 子どものため表土除去したが

 
郡山市が先行的に行った学校校庭の除染。除染の効果は一定程度データで示されたが、仮置き場が見つからないという壁に直面した=2011年4月27日

 東京電力福島第1原発事故から1カ月余りたった2011(平成23)年4月27日、郡山市の薫小校庭に重機が入り、土を削り取り始めた。放射線量低減に向け、後に多くの市町村が実施することになる「校庭の表土除去」。郡山市が先駆けとなった。原発事故で汚染された土壌などの扱いを定めた放射性物質汚染対処特措法ができる以前の「空白期間」に行われた自衛対策は、壁に当たることとなる。それが除染土の「仮置き場」の問題だ。

 「当時は(表土除去を)やる必要がないと言われていたが、さまざまな情報を収集する中で、国に反対されても早くやるべきだと思った。子どもたちの健康を最優先に考えた」。当時の市長の原正夫(77)は独自で除染に踏み切った決断の理由をこう話した。

 市は削り取った土を校庭の隅に積みブルーシートで覆って仮置きした。その後、同市逢瀬町の河内(こうず)埋立処分場に一時保管する予定だったが、そう簡単に事は進まなかった。

 表土除去が始まった4月27日。市は同じ日に、河内埋立処分場がある同市逢瀬町河内地区で除染土の一時保管に向けた住民説明会を開いた。1時間半以上に及んだ説明会。住民は線量の高い土壌を地域に運び込むことへの不安、計画前に地元に説明がなかったことへの不満を口にした。結果、住民の理解は得られず市は処分場への搬入を断念した。

 設置の決定は13年末

 仮置き場が決まらず、除染土は行き場を失った。文部科学省は学校などの線量低減策として5月11日、表土入れ替えや除染土埋設を提示。薫小では削り取ってから約3カ月が過ぎた夏休みに、校庭に埋められた。市内では住宅除染なども始まるが、仮置き場設置は難航。結局、郡山市内で初めて仮置き場の設置が決まったのは、原発事故から3年近くたった13年末だった。

 環境省によると、除染で出た土壌などを一時的に集める県内の仮置き場は、最大で1371カ所に及んだ。仮置き場が決まらない地域では、公園や住宅の片隅に土のう袋が積まれる異様な光景が広がった。

 反対すると差し障り

 仮置き場の設置には住民の理解が必須だった。「土地を貸し始めた5年ほど前は、線量などについて不安視する声も一部であった」。いわき市久之浜町で仮置き場として土地を提供する地権者の男性は当時を振り返る。男性の決断を後押ししたのは「除染をスムーズに進めてほしいとの願い」。同市川前町の男性も「(土地の提供の)反対をすると、地区の除染に差し障りが出るのではないかと考えた」と地区への思いを明かした。除染のスピードを加速させたのは原発事故対応の前面に立つ国ではなかった。(文中敬称略)

 「仮置き場」最大1371カ所 983カ所搬出を完了

 仮置き場は県内に最大1371カ所設置された。国直轄除染の分は330カ所。このうち、保管中は112カ所、搬出完了は218カ所。搬出が終わって原状回復・返地済みは126カ所となっている(いずれも昨年11月末現在)。

 市町村除染分は1041カ所。このうち、保管中は276カ所、搬出完了は765カ所。原状回復・返地済みは516カ所(いずれも昨年9月末現在)。両者を合わせると1371カ所のうち、388カ所で保管中、983カ所が搬出完了、642カ所が原状回復・返地済みとなっている。

 仮置き場では、除染土が入った大型土のうなどの保管容器が積み重ねられた。さらに遮蔽(しゃへい)のための土のう(放射性物質で汚染されていない山砂入り)で覆われ、上部にシートがかぶせられた。ガスの充満や温度上昇を防ぐためのガス抜き管なども備えられた。現場では、定期的に敷地境界での空間線量測定や、地下水の放射性物質濃度の測定によって安全確認が行われた。

 仮置き場が決まるまで、除染土が住宅敷地内に一時的に置かれたところも多い。住宅では地上保管と地下保管の二つの方法があり、地下保管では保管容器に除去土壌を入れ、埋設。その上に30センチ以上の覆土が行われた。地上保管では、保管容器に覆土し、防水シートで覆い保管された。

 県によると、市町村除染の分は昨年12月31日現在で、1万5093カ所で現場保管が行われている。内訳は住宅などが1万4648カ所、学校などが13カ所、公園などが432カ所。搬出済みは17万4600カ所となっている。環境省は、帰還困難区域を除き、2021年度末に仮置き場からの搬出完了を目標としている。

 土のう袋劣化や破損

 大型土のう袋は経年劣化による破損なども起きた。また、本県に豪雨災害をもたらした2019(令和元)年の東日本台風(台風19号)では、二本松市、田村市、川内村、飯舘村で大型土のう袋(容量1立方メートル。土壌なら約1.2トン、可燃性廃棄物なら約300キロ)が流出する事態もあった。回収できなかったものもあるが、これらについて、環境省と自治体は空間線量などの測定を行い、周辺や水質への影響はなかったと判断している。