【検証・廃炉】変わらぬ「東電体質」 事故9カ月前にも電源喪失

 
所員に訓示する東電の小早川社長。現場の作業員の努力を水の泡にせず、本県との信頼関係を回復して廃炉を進めることが求められる=今年3月23日、福島第1原発

 富岡町にある東京電力の廃炉資料館。館内では福島第1原発事故が発生した2011(平成23)年3月11日の中央制御室の状況を再現した映像が流れる。出演者のセリフは実際に原発事故対応に当たった社員から聞き取ったものだ。ひときわ緊迫感を持って発せられたのは原発の全電源喪失を表す「SBO(ステーション・ブラックアウト)」という一言だ。

 11年の原発事故では地震と津波、そして東電の災害に対する備えの不足により全電源が失われ、核燃料が溶け落ちた。「想定外」という言葉が使われたが、第1原発では原発事故の9カ月前に当たる10年6月17日、2号機で電源喪失のトラブルが起きていた。

 作業員が中央制御室で温度記録計の交換作業をしていたとき、約10センチ隣にあった装置に触れた。原発の電源は、発電所内で賄われる内部電源と外から引き込む外部電源に分かれており、装置は電源系統を切り替えるスイッチだった。接触により誤作動を起こした。

 内部電源が止まり、外部電源にも切り替わらない状態となり、タービンや原子炉、原子炉を冷やすための水を供給するポンプなどが次々と停止。炉内の水位は約2メートル低下し、緊急炉心冷却装置が作動する寸前まで至った。

 このトラブルから2カ月後の8月16日、作業員が5号機のケーブルを取り外した。これは本来、定期検査中だった6号機で行うべき作業だった。ケーブルは緊急時に原子炉へ冷却水を送るためのタービンに関連したもので、外したまま半月放置された。タービンは9月2日に自動停止した。

 連続したトラブルは電源系統の脆弱(ぜいじゃく)性の改善や緊急時に使用する機器への意識を改める機会となるはずだったが、社内体質は変わらなかった。東電で過去に起きたトラブル隠しやデータ改ざん。原発の安全は確保されているのか―。トラブルで垣間見えた疑念は消えることなく、11年3月11日を迎え、「安全神話」は砕かれた。

 原発事故から10年が経過した今、再び東電の安全に対する姿勢が問われている。福島第1原発3号機に設置した地震計を故障したまま放置し、その事実を原子力規制委員会の会合で発覚するまで伏せていた。柏崎刈羽原発(新潟県)では、テロ目的などの不正な侵入を検知する体制が機能しないままになっていた。

 一連の不祥事を巡り、東電社長の小早川智明(57)が県内を謝罪行脚した。原発が立地する大熊町長の吉田淳(65)は「一番大事なのは信頼回復だと考えている。その信頼回復の先に廃炉があると思っている」と憤りを隠さなかった。本県復興の大前提となる廃炉。長い道のりの中、原発事故の責任者である東電に気の緩みは許されない。(文中敬称略)

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 30~40年かかるとされる第1原発の廃炉。溶け落ちた核燃料の取り出しや汚染水の扱いなど、山積するさまざまな課題を探る。

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 工程表は5回改定 廃止最終目標30~40年後は堅持

 東京電力福島第1原発の廃炉工程は、政府の工程表「中長期ロードマップ」で枠組みが決められている。最初の工程表が作られたのは2011(平成23)年12月。福島第1原発の廃止措置の最終目標を原発事故から30~40年後に設定した。その後、工程表は原発の状況に応じて5回改定された。使用済み核燃料プールからの燃料取り出しの目標年次などがそのたびに変化したが、最終目標は堅持している。

 原発事故直後の緊急時対応などは別の計画で進められており、工程表による廃炉工程の起点は、原子炉の「冷温停止状態」を達成した11年12月からとなる。

 廃炉期間は大きく三つに分けられる。現在は、4号機の使用済み核燃料プールからの燃料取り出しに始まり、最初の号機からの溶融核燃料(デブリ)取り出し開始までの間の「第2期」に相当する。第2期と最終段階とする「第3期」を分けるデブリの取り出しは22年ごろに2号機で試験的に行われる見通しだ。

 現行の工程表は19年に改定された。政府はこれから始まる第3期のうち31年末までの期間を「第3―〈1〉期」と位置付け、この期間の主な目標として、1~6号機の使用済み核燃料プールからの燃料取り出し完了(31年内)や汚染水発生量を1日平均100トン以下に抑制(25年内)することなどを定めた。

 東電が廃炉作業の準備を進めているが、原子炉建屋などは放射線量が高く、現場の状況が分からない部分がある。作業を進めるに従い新たな課題が生じることが想定され、政府は「復興と廃炉の両立」を基本原則に、安全を最優先して工程を調整する方針だ。

 政府や規制委の監視不可欠

 福島第1原発の廃炉は原発事故当事者である東京電力が一義的に行うが、政府や原子力規制委員会、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)などが関わって助言、監視する仕組みができている。

 NDFは毎年度、廃炉の課題解決につながる技術戦略として「戦略プラン」を提示している。これは数年度ごとに改定される政府の廃炉工程表「中長期ロードマップ」の技術的根拠としても位置付けられている。

 一方、東電は工程表を着実に推進するための「廃炉中長期実行プラン」を策定。複雑な作業の見通しを具体化するとともに、県民や社会に対して廃炉事業の透明化を図る意味合いがある。

 東電は原発事故前から、トラブルを矮小(わいしょう)化したりして、隠蔽(いんぺい)とも受け取れる情報発信の仕方をしていた。原発事故を受け、その体質の見直しが図られたとされていたが、最近の不祥事で再びその傾向が表れ、原発周辺の自治体などから強い批判が寄せられている。安全で確実な廃炉の実現には、政府や原子力規制委員会、NDFが東電を厳しく監督することが不可欠になっている。