【検証・廃炉】今なお続く瀬戸際 進んだ使用済み燃料取り出し

 

 東京電力福島第1原発3号機の使用済み核燃料プールから運び出された最後の燃料が2月28日、別の建屋にある水で満たされた共用プールに収納された。「これでやっと無事に終わった」。東電の3号機燃料取り出し作業で責任者を務める中島典昭(43)は、2年に及んだプロジェクトの完了に胸をなで下ろした。

 中島は2011(平成23)年3月11日、第1原発所長の吉田昌郎(13年に死去)付の職員として原発事故に直面した。現場の懸命な努力にもかかわらず、冷却機能を失った原発の暴走は止まらなかった。1号機、3号機と次々と建屋が水素爆発した。収束作業を指揮する免震重要棟にいた中島は「もう助からないかな」と、一時は死を覚悟した。

 やがて原発事故は、大量の放射性物質を敷地外に放出するという最悪の結果となりながら、一応の収束を迎えた。中島は2年ほど第1原発で勤務した後、東京の本社に異動となった。

 廃炉の最前線に戻って来たのは18年夏。3号機の使用済み核燃料取り出しのリーダーを命じられた。中島は当時の心境を「ちゃんと事故を抑えられなかった後悔があった。再び作業に取り組めることは自分にとって一種の償いというか、そういう機会を与えられたと思った」と振り返る。

 核燃料取り出しは、廃炉の中でも早急にリスクを下げなければならない作業に位置付けられていた。水素爆発により建屋が高線量であるため、燃料取り出し用カバー内に設置したクレーンを遠隔操作して取り出す工法を採用した。19年4月15日、燃料取り出しに着手した。プール内に落下したがれき撤去と同時並行で行ったため、作業は24時間体制。機器のトラブルも相次ぎ、中島は気の抜けない毎日を過ごした。

 慎重かつ効率的に作業を進め、最後に残された課題は、がれきの落下などで燃料上部の取っ手が変形した「変形燃料」への対応だった。変形が確認されたのは18体。状況を撮影して3D(3次元)プリンターで模型を作り、既存の機器でつかめるかどうかを確認した。つかめないことが判明したのは4体で、新たなつかみ手を作って取り出した。

 政府は「中長期ロードマップ(工程表)」で、第1原発1~6号機の全ての使用済み核燃料取り出しを31年末までに完了する目標を掲げる。中島は3号機に続き、6号機のプールからの燃料取り出しに従事する予定だ。

 残る1、2、5、6号機の使用済み核燃料は計4433体に及ぶ。しかし、第1原発の敷地内に保管できる容量はすでに切迫している。10年の間に、施設増設などで保管容量を確保することができるか、地元の了解は得られるのか。まだまだ瀬戸際の対応が続く。(敬称略)

 「安全で確実」工法課題

 東京電力福島第1原発の使用済み核燃料プールにある燃料を巡り、政府は廃炉工程表「中長期ロードマップ」で1~6号機の核燃料を2031年末までに取り出しを完了する目標を掲げている。これまでに終了したのは4号機(14年12月)と3号機(今年2月)の2基。残る四つの号機からの取り出しを実現するには安全で確実な工法の選択に加え、取り出した核燃料を保管する場所の確保が課題になる。

 東電の「廃炉中長期実行プラン2021」では、おおむね3年を目安に〈1〉6号機からの燃料取り出し〈2〉1号機の原子炉建屋への大型カバー設置〈3〉2号機から燃料を取り出すための構台の建設―を同時並行的に進める計画を描く。

 原子炉建屋の上部にある使用済み核燃料プールから取り出した燃料は、福島第1原発の敷地内にある「共用プール」に収容される。共用プールに貯蔵することができる燃料集合体の数は6734体。共用プールには4号機と3号機から取り出した燃料など計6671体が運び込まれており、ほぼ空き容量がないのが実情だ。

 共用プールの燃料は、空冷式の専用容器(乾式キャスク、おおむね1基に燃料集合体69体を収容可能)に詰め替え、敷地内の「乾式キャスク仮保管設備」に移送される。この作業によって共用プールの容量を確保することができるが、設備の運用も厳しい状況。貯蔵容量はキャスク65基分で、すでに約6割に当たる37基が運び込まれている。

 東電は、6号機以降の号機から取り出した核燃料を収容するため、敷地内に新たなキャスク保管設備の建設を予定しているが、具体化には至っていない。

 核燃料サイクル不透明

 福島第1原発の使用済み核燃料を敷地外に運び出すことはできないのだろうか。原発事故前、原発で使用された核燃料は青森県六ケ所村の再処理工場に運び出されて再利用されることになっていた。この流れは、核燃料サイクル【図2】と呼ばれていた。

 ただ、再処理工場は不具合が相次ぎ、思うように稼働することがなかった。このため東京電力は、原発から出た使用済み核燃料の運び出し先として、青森県むつ市に中間貯蔵施設「リサイクル燃料貯蔵」(RFS)を整備していた。

 東電によると、RFSは通常運転している原発から出た核燃料を再処理に至るまで貯蔵する施設―との位置付けになっている。このため、原発事故を起こした福島第1原発の使用済み核燃料は、たとえ安全性に問題がなくても、RFSに運び出すことは不透明になっている。原発敷地内に「乾式キャスク仮保管設備」を増設することは、問題解決の方策の一つだ。しかし、県などは事故前、「運び込んだ燃料は必ず運び出す」ことを求めていた。核燃料の際限のない長期保管につながらないか、東電には地元への丁寧な説明が求められる。