【検証・廃炉】デブリとの「闘い」 最初の2号機取り出し段階へ

 

 東京電力福島第1原発2号機の原子炉格納容器の中を、遠隔操作の機器が静かに進む。先端は2本の指状になっており、開閉によって物をつかむことができる。原子炉格納容器の底部に到達した機器は小石のような物体をつまみ、持ち上げることに成功した。2019年2月13日、原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)に初めて接触した瞬間だった。

 第1原発1~3号機の原子炉格納容器内は高線量で、人が入ることなど到底できない。原発事故で溶け落ちたとされるデブリはどうなっているのか―。東電などは、さまざまな条件を設定して、どのように燃料が溶けるかのシミュレーションを通じてデブリの場所を推測する作業を始めた。

 その後、地球に降り注ぐ宇宙線が大気と反応して生じる素粒子「ミュー粒子」を使い、レントゲンのように溶け落ちた燃料の位置を把握する研究も進んだ。その結果、1号機と3号機は燃料の多くが格納容器の底まで溶け落ちており、2号機は原子炉圧力容器の中に一定量がとどまっていることなどが分かってきた。

 政府の廃炉に向けた工程表「中長期ロードマップ」では、1~3号機のうち最初の号機からのデブリ取り出しを21年内に行うことを目指してきた。ロボットで初めて原子炉格納容器内の状況を確認できたのは、15年4月の1号機での調査で、原発事故から4年が経過していた。その後、さまざまなロボットなどを投入、19年にデブリの接触に成功するまでに至った。

 政府は工程表を順次改定し、デブリを最初に取り出すのは2号機と決めた。原子炉格納容器の側面にある貫通部からロボットアームを入れ、底にあるデブリを試験的に少量採取する方法を採用。第1原発の廃炉に必要な機器などを研究する国際廃炉研究開発機構(IRID)などは、英国で取り出しに使うアームの開発を進めた。

 しかし、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が影を落とした。英国で思うように作動試験が進まなかったことを受け、東電は20年12月24日、目標としていた21年内のデブリ取り出し延期を発表した。

 原発事故直後から第1原発廃炉に関わってきた原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事長の山名元(はじむ)(67)は「10年かけて原子炉格納容器の中に本格的な取り出し機器を入れる段階まで来ることができた。(廃炉に向け)大きな谷を越えたと考えている」と指摘する。

 ただ、推定されるデブリの総量は880トン。原発事故から30~40年とされる廃炉は実現できるのか。山名は「闘いはこれから。最短で最も安全な取り出し工法を選択し、目標達成に全力を尽くしていく」と語った。(敬称略)

 「廃炉の最難関」着手は22年以降

 「廃炉の最難関」とされる、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向けた準備が進む。最初に取り出されるのは2号機からで、来年以降に試験的にわずかな量から始める見通しだ。廃炉の枠組みを定めた政府の廃炉工程表「中長期ロードマップ」は、最初の号機からのデブリ取り出しが、廃炉のステージを廃炉完了に向けた最終段階に引き上げる節目になると位置付けている。デブリ取り出しに向けた課題を探る。

 分厚い鋼鉄などで造られた原子炉格納容器には、さまざまな作業で使う貫通部が設けられていた。2号機では、このうち格納容器の側面にある「X―6ペネ」と呼ばれる貫通部からロボットアームを入れ、底にあるデブリを採取する。試験的な採取の後には、徐々に取り出しを拡大していくことを目指している。

 3号機は1、2号機と比べると格納容器内の水位が高い状況にある。仮に2号機と同様に側面からのデブリ取り出しを選択する場合には、格納容器内の水位調整を施さなければならないという課題がある。1号機の場合は、炉内の状況についてまだ分からない部分が多く、さらなる調査が必要な段階にある。

 デブリの取り出しについては、金属やコンクリートとの混ざり具合で性質も異なるとみられるデブリの状態などが明らかになるに従い、最も効率的で安全な手法を採用することになっている。現在考えられている主な工法は【図2】の通りになっている。

 原子炉の運転では、核燃料からの強い放射線を遮るため水が使われる。デブリからも強い放射線が出ているため、これを遮るには格納容器内を水で満たす「冠水工法」が優れているとされる。しかし、格納容器には、震災や原発事故で多くの損傷があることが見込まれ、全てを修復して実行に移すのは難しいとされる。

 このため、現段階では、放射性物質が飛び散らないような対策を施しながら、水を満たさない状況で慎重に取り出す「気中工法」が有力とされている。2号機のような取り出しは「気中―横アクセス」と呼ばれ、格納容器の上からデブリを取り出す方法は「気中―上アクセス」と呼ばれる。

 ただ、着実な取り出しに向けては、さらなる格納容器内調査やデブリを切り出す機器の開発などが求められる。廃炉の目標期間は原発事故から30~40年となっている。技術開発の遅れによってデブリの取り出しが滞ることがないよう、東京電力だけではなく、政府や原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)などが一体となって工程を管理していくことが欠かせない。

 保管施設の議論これから

 取り出したデブリはどのように保管するのか。

 東京電力によると、2号機での最初の試験的取り出しでは、デブリの大きさは最大数グラム程度となる見通しだ。そのため、既存の建屋内に樹脂製の容器(グローブボックス)を設置し、重量などを計測した後に、茨城県にある既存の分析施設に運び込むことになっている。

 しかし、2019年2月の2号機での調査では、機器でつかむことができた小石状の形のほかに、粘土状に固まったデブリなども確認されている。段階的に取り出し規模を拡大するにつれ、ある程度の大きさのデブリを保管するための施設が必要になってくる。

 まずは既存の建屋内に「一時保管設備」を設ける。デブリを入れる保管容器は、使用済み核燃料を保管する技術を応用して開発する見通しになっている。設備には、金属やコンクリートにより十分な遮蔽(しゃへい)効果を持たせることが求められる。

 また、東電は、さらにデブリ取り出しが進むことを想定し、新たに保管施設を建設する考えだ。場所は、原発敷地内の原子炉建屋南側を想定する。しかし、そこには現在、処理水などを貯蔵している地上タンクが林立している状況だ。

 推計では、1~3号機にあるデブリは計880トンに上るとされている。それら全てを安全に保管するために十分な敷地を確保できるかどうかなどは、まだ議論されていない。